第205話 実はあった『廃帝ハド』を倒す機会
「でもまあ、そんな俺達も……実はその間抜けさゆえに奴を見逃してきたんだ。だから奴は今でも自由にこの遼州圏を行き来できる。あれ……俺が甲武の『殿上会』に出てる時にお前さんとアメリアがデートした時が有ったろ?」
突然、嵯峨は突拍子もないことを言い出した。赤面しながら誠はタバコを吸う嵯峨をにらみつけた。
「あれは、アメリアさんが『デートだ』と主張しているだけで、実際やっていたことは車で千要県の中央部を行ったり来たりしたり、ゲーセンでアメリアさんがいかにゲーマーかということを見せつけられたりしただけで……それにそのあと言った喫茶店では尾行してきていたクバルカ中佐たちにさんざん遊ばれただけでデートだなんて言えませんよ!」
誠はそう言ってニヤニヤ笑う嵯峨に言い返した。
「知ってるよ。その時、お前さん達を襲ってきた法術師……アレは十中八九『廃帝ハド』本人だ。しかも、奴はなぜか一人でその場にいた。その場にランは居たんだろ?一対一。お互い何の構えも無い。ランに負ける要素は一つもない。でもランは奴に逃げられた。残酷だけどそれが事実なんだよ。恐らくその時にランが奴を葬り去っていれば今の俺達の状況は無かった……過ぎたことを言ってもどうしようもないけどね」
嵯峨はタバコを手にそう言うと自虐的な笑みを浮かべた。
「じゃあ、あの時にあそこにいたのは『廃帝ハド』で、しかも一人でいたと隊長は言うんですか?」
嵯峨の言う言葉に誠は衝撃を受けていた。
「うん、後で証拠にならない奴が現場に立っている写真を渉からもらってね。間違いなくあの時奴は一人であそこにいた。特に何かを持っている訳でもなかった。そん時ならランは奴に勝てた。そしてもう一度……いや、奴にはお前さんは助けてもらったことが有る」
嵯峨は淡々とそう言うと煙草の灰を灰皿に堕とした。
「助けてもらった?どういう意味ですか?」
誠は嵯峨の言葉の意味が分からずオウム返しにそう聞き返した。
「その直後の『バルキスタン三日戦争』の時だ。お前さんは予想外の07式のヒートダガーの一撃を受けるところを奴のパイロキネシス能力でその07式を倒してもらって助けられただろ?」
嵯峨の言葉であの『05式広域制圧砲』で敵味方入り乱れる戦場を制圧する作戦でそれを阻止しようとした『ビッグブラザー』の差し向けた07式に命を取られかけたことを思い出した。
「恐らくその行為は別にお前さんを助けたかったのが奴の本意じゃないと俺は見ている。奴にとってはそうすることでよりランに『やりようによっては』勝てる状況を作り出すための準備の一つにすぎなかったんじゃないかとね。だが、その時も、奴は現場にいるランに何も仕掛けなかった。つまり、その時も奴はランには勝てなかったんだ。もし、その時ランがそのことに気付いていれば……おそらく奴はバルキスタンに屍を晒していた……これもまた過ぎたこと……さっき言ったヒーローの中で時間を巻き戻すヒーローが居たそうだが、ランにはそれは出来ないそうだ。時間だけはね……どうすることもできないんだよ」
まるで何かを諦めたように嵯峨はそう言うとタバコを大きく吹かした。




