第202話 だからこその『特殊な部隊』の意味
「甲武は前の戦争で負けた。そして核の放棄を停戦の条件として受け入れた。これは同じく同盟国だったゲルパルトも同じ。持っていた核はすべて地球軍に没収された。もう一国で終戦前に国が崩壊した遼帝国なんだが、ここは地球人じゃなくて遼州人の国だからそもそも核を持つという発想がは無かったから核は持っていない。まあ、どさくさに紛れて遼南共和国を打ち立てて地球と手を結んで甲武に宣戦布告していつの間にか戦勝国になってたなんて言う落ちがつくんだけどね」
嵯峨はそう言って苦笑いを浮かべた。
「そして現在は甲武もゲルパルトも同盟加盟国だ。でもどちらも元地球人の国であることに変わりはない。今の甲武の宰相は義兄貴の西園寺義基がやっている。義兄貴の方針は低軍備重経済の政治だ。だから軍縮には前向きだ。地球人の政治家にしては『理性』が『本能』に勝ってる稀有な政治家と言える。同じくゲルパルトのキリスト教民主党の党首で首相のフォン・バウアー・シュトルンベルグ……ああ、この人俺の死んだカミさんの兄さん。ゲルパルトでも冷遇されてた国防軍の飛行戦車乗りでね……とりあえず戦時中からネオナチが大嫌いで知られた人物だ。この人も軍備拡大には慎重派として知られる。二人とも地球人としては珍しい俺と話が通じる御仁だよ」
そこで久しぶりに嵯峨は笑みを浮かべた。
「地球人が甲武やゲルパルトから取り上げた核で地球圏で勝手に民族浄化の核戦争をやりたいのなら勝手にやればいい。でも、そんなものをこの遼州圏に持ち込まれたら迷惑な話だ。遼州圏では今でも前の戦争の戦勝国だった遼北人民共和国や西モスレム首長国連邦は核を保有している。しかもこの二国は同盟内部でも仲が悪いことで有名だ。遼北は厳格なイスラム教の教義の為に西モスレムの女性の権利が侵害されていると非難し、西モスレムは西モスレムで遼北国内に住むイスラム教徒への信仰の自由が侵害されていると言い出して何か同盟で会議があるたびに代表が口喧嘩を始める。それを周りの国は黙ってみているほかないが……両国だけが遼州圏では核を持っていてそれを使う用意があるというのは事実なんだ」
嵯峨は真面目な顔を作って誠を見上げた。
「連中はおそらく核を使う気は無いだろう。『ビッグブラザー』の存在はどちらも知っているからね。『ビッグブラザー』の『アナログ式量子コンピュータ』が仕掛けて来る電子戦の前では恐らく核の発射準備をするなんて言い出した時点でどちらの国も終わる。ただ、その核を持っているという優越感で軍事問題に発展しかねない状況下で影響力を行使しようとするだろう……その時がうちの出番だ」
明るい笑顔を浮かべて嵯峨はそう言って立ち上がると誠の肩を叩いた。
「遼北、西モスレムの暴走を止める。それが出来るのは軍隊じゃない。あくまで政治問題にならない『警察官』がその場にいる必要がある。その為の司法局、そのための『特殊な部隊』。だから俺はお前さんには期待しているんだ。お前さんには辞められたら困る……そうなれば遼州同盟は終わる……頼んだぞ」
嵯峨の珍しい真面目な顔を見て誠は静かにうなずいた。




