第194話 真面目な話をすると『人類最強』はあまり誇ってはいけないらしい
「まあ、冗談はそれくらいにしてだ」
嵯峨はそう言うとまた新しいタバコに火をつけた。
「お前さんもランから言われてるだろ?『法術師の戦いは先に手の内を見せた方が負ける』って」
その顔にはこれまでのふざけた調子は消えていた。誠も嵯峨の言葉で話題は明らかに真面目な方向に向かっていることが分かった。
「つまり、アイツがそんなことが出来るってことはあまり公にはしたくはないんだ。もしアイツが生身で全力を尽くして戦えばそれだけの力があるということが誰にもわかることになる。その時点で、アイツと同程度の力を持つ人間にとってはアイツの手の内はお見通しになる。そんな力を持った人間にはいくらでも対応策は立てられるからね。だから、アイツは戦場では手を抜いても平気なくらいの強さの05式や『方天画戟』に乗ってたわけだ。それに、お前さんが『近藤事件』で法術の存在を公にするまではアイツはただの無敵のパイロット以上の存在でがること以外は遼州圏にとっては有ってはならない事だったんだ。だから、アイツはこれからも05式に乗るし、『方天画戟』が納入されてくればそれに乗り換えるだろう」
嵯峨はタバコをふかしながらそれが当然のようにそう言った。
「確かに法術を使っていけないとなると隠しようがない『身体強化』以外の力は使えないことは理解できるんですが……そもそもそんなクバルカ中佐と同等の力を持つ人間なんて居るんですか?いるなら教えてくださいよ」
誠は嵯峨の言うことの一部に致命的な欠陥があるように感じてそう言った。
「うん、居るよ。まず、かなめ坊とかえでの母ちゃん。つまり俺の義姉さん。『甲武の鬼姫』と呼ばれる西園寺康子女史……お前さんもあの怖いもの知らずのかなめ坊や冷静沈着なかえでの奴がその名を聞いてビビってる様を何度も見てるだろ?あの人には恐らくランと同じことが出来る。というわけで、ランと同程度の能力を持つ人間はまず一人いることが分かったわけだ。よかったね、知識を持つことは人生を豊かにするよ」
嵯峨は嬉しそうにそう言った。確かに誠の目から見てもかなめとかえでの母親への畏怖の感情はある意味常軌を逸しているようにも見えた。その力が先ほど嵯峨が言ったアメコミヒーローや巨大怪獣や魔法少女を子ども扱いするほどのものならばそんな存在が近くにいれば性格が歪んでも仕方が無いというように誠には思えてきた。
「そして、実はお前さんの凄く身近にも一人、そのくらいの力を持ってる人が居るんだ。でもその人は驕らない。一切その力を持っているそぶりも見せない。だから一番身近にいるお前さんもこれまで気づかなかった……見事なもんだよ、あそこまで殺気も力も消して見せる……さすが400年も生きてるだけの事はあるな……うんうん」
嵯峨は一人うなずきながら誠を見上げた。
「だれです?それ。僕の身近な人って……」
そう答えた誠に嵯峨は諦めたような軽蔑したような顔をするとただひたすら黙り込んだ。




