第192話 それでも『人類最強』には出来ないことが有るらしい
「それで、ランの奴は何でも出来るんだな。もうどうでもいいやと思ってこれならどうだと自棄になった俺が見せたのがお前さんの大好きなバトル系魔法少女アニメだったんだ」
嵯峨は少しこれまでとは違う雰囲気で誠に向けてそう言った。
「別にそんなことで自棄になる必要なんかないじゃないですか。で?どうだったんですか?あの人はやっぱり魔法を使えるんですか?」
誠は半分呆れ果てながら嵯峨に向けてそう言った。
「うん、使えるのと使えないのが有るらしい。攻撃系の魔法。結構同じ威力のものが使えると平然と答えた。しかも、『こいつなんでこんな長ったらしいセリフを吐いて隙だらけになる必要が有るんだ?アタシなら即使うぞ』と言ってたからファンタジーモノにあるような呪文なんかはアイツには必要が無いらしい。便利で良いねえ……羨ましいよ」
嵯峨は満面の笑みを浮かべてそう言った。
「アレはですね、物語を盛り上げる間を作るために呪文を唱えるシーンとかでヒロインの強さとか意志とかを表現するんです。あのシーンが無くていきなり魔法で敵を瞬殺してったら30分番組が15分で終わっちゃうじゃないですか」
誠はそう言う魔法少女モノのお約束は分かっていたので嵯峨に向けてそう言った。
「そんなお約束をアイツが理解できると思うか?初対面のお前さんに『人類最強』とか言って来る奴なんだぞ?アイツは。だから、敵に出会う、魔法……ああ、この場合アイツの使える法術ね、これをすぐさま使う。敵が死ぬ。終了。凄く簡単。もしアニメにしたら15分どころか3分くらいで終わると思うよ、アイツが主人公の魔法少女アニメ」
嵯峨はいかにも面白そうにそう言った。ただ、その表情が次の瞬間複雑なものに変わった。
「ただ、アイツにも弱点がある。魔法少女のすべてにできてアイツには絶対できないことが有るんだ」
深刻そうな表情を作る嵯峨だが、どうせろくでもない話だろうと誠は呆れながら嵯峨を見つめていた。
「いまさら何を言うんですか?炭素の棒からダイヤが作れて、光速移動が出来て、魔法少女が使える最強魔法より強力な法術が呪文無しに発動できるのにこれ以上何を望むんですか?隊長とクバルカ中佐は」
やる気のない誠の口調に不服そうな表情を浮かべたが、再び嵯峨の表情はわざとらしい真剣な表情に戻った。
「それは魔法少女にとっては一番重要なことだ。これ無しには魔法少女とは呼べないほど重要な問題だ」
嵯峨は深刻な表情を浮かべて誠を見上げた。
「アイツには変身が出来ない。魔法少女モノのお約束のちびっ子が大人のレディーに早変わりとは行かないんだ。衣装が代わるというのも無理らしい。アイツはそれだけは歯ぎしりして悔しがってた。地球人にはこんな力を持った凄い人間がいるのかと言って心の底から地球人を恐れていた。凄いね、地球人。魔法の力で子供が大人になっちゃうんだから。それにあんなひらひら衣装で戦ったら邪魔だなあとか俺は思うんだけどね。俺は遼州人だからそんなことはできない。不老不死だけど」
嵯峨はあっさりとそう言ってタバコをふかした。
「アンタ!これまでの映画やアニメをクバルカ中佐に『記録映画だ』と言って見せたでしょ?地球にはアメコミヒーローも、怪獣も、忍者も、魔法少女もいませんよ!それこそさっき言ってた『愛』の方が地球にはあるかも知れないじゃないですか!隊長は昔から性格が悪かったんですね!」
誠は完全に騙されて地球人の恐怖を植え付けられたランに同情した。
「よく分かったね。『これは地球では普通にあることだから。お前さんの仕えてた『外道』も実はこんな力を隠してたんだ』と言ってそれらの映画を見せたのは事実。そして東和に亡命して東和陸軍に入るまでアイツはそのことを本当に『記録映画』だと信じていた。面白いね、アイツ」
嵯峨はそう言って満面の笑みを浮かべていた。そこには反省の色はまったく見て取ることはできなかった。




