第189話 『人類最強』の幼女は本当に人類最強ですべての人間は彼女にとってウジ虫だった
「それと、お前さんがランから見たら『ハエ人間』にしか見えないのにもちゃんとした理由がある。アイツから言わせりゃこの世は『ハエ人間』の宝庫なんだ」
嵯峨はタバコに火をつけながらそう言った。
「それって変な戦争映画を見過ぎた結果じゃないんですか?」
誠は疑いの目で嵯峨を見ながら答えた。
「うんにゃ、アイツは強い。それはもう想像を絶するくらい強いんだ。それこそアイツからしてみたら俺もお前さんも強さの比率にして言わせれば人間様とウジ虫くらいの強さの差がある。だからアイツにとっては世の中の人間の大半はウジ虫にしか見えない」
そう言って笑う嵯峨にはどこか皮肉の色が見て取れた。
「確かにクバルカ中佐がやたら強いのは知ってますけど、そんなに強いってなんで言えるんです?それに隊長もそれなりに強いんでしょ?それならそんなに卑屈になること無いじゃないですか」
誠がそう答えると嵯峨は遠くを見るような目をして話を続けた。
「アイツがね、俺の隊のエースに堕とされて俺の部隊の捕虜になってた時、暇そうだら本でも読むかと言って俺は奴に本を渡した。アイツは暇に任せてむさぼり読んだ。だから、今のアイツは結構インテリだろ?東和に亡命してから東和陸軍に入っても夜間大学を受験して勉強してたくらいだ。勉強熱心なんだね、アイツは」
嵯峨はそう言うとニヤリと笑った。
「それのどこが強さと関係あるんですか?確かに見た目とその知識量のギャップはそれで埋まりますけどそれだけで強さの説明には何にもなっていないですよ」
誠はランが大学を出ているらしいことは知っていたがわざわざ夜間大学に通うほどの勉強熱心な人物だとは知らなかった。
「でもさあ、本だけ読ませといても知恵がつくだけで見ていて面白くないじゃん。俺って性格悪いからこいつは面白いおもちゃだと思っていろんな映画を見させてどんな反応をするのか見てみることにしたの」
嵯峨はそう言って煙草の灰を灰皿に堕とした。
「どんな映画ですか?戦争映画ばっかり見せたんですか?戦争帰還兵に戦争映画を見せるなんて趣味が悪いですね」
皮肉のつもりでそう言う誠に嵯峨は首を横に振った。
「いくら俺でもそんなことはしないよ。俺自身が戦争帰還兵だもの。そんな事をして気分が悪くなるのは十分わかってる。そこで大衆娯楽映画を見させてどういう反応をするかなあとか考えた訳」
嵯峨にしてはあまりに普通の行動に誠は静かにうなずいた。
「とりあえずアメコミヒーローもの映画や、怪獣映画、特撮映画、忍者モノ、超能力アニメ、そしてお前さんの好きな魔法少女アニメなんかをアイツに次々と見せてみたんだ。そしたら面白いことが分かった」
そう言う嵯峨の言葉に嵯峨のおもちゃにされているランを哀れに思う自分を見つけて誠はうつむいた。
「隊長は人をおもちゃにするのが本当に好きなんですね。友達無くしますよ」
誠はさすがの嵯峨の性格の悪さに呆れながらそう言った。
「そんなの余計なお世話だよ。まず、アメコミヒーローなんだけど。ランに言わせると『こいつら本当にヒーローって呼べるほどすごい奴なのか?弱いじゃん』という答えが返ってきた』
誠はランの放ったその創造の斜め上を行く発言に驚いた。
「アメコミヒーローを『弱い』……じゃあ、クバルカ中佐は空でも飛べるんですか?」
皮肉のつもりで誠はそう言った。
「飛べるに決まってるだろ。『厚生局違法法術研究事件』の時、東都警察の法術対策部隊の連中が空を飛んでた映像をお前さんも見てるじゃないの。遼州人の法術師には空を飛べるのはざらにいる。俺は飛べないけどね。お前さんもだけど。かえでは……教えると怒られるから教えない」
嵯峨はまるで当たり前のようにそう言った。その口調が当たり前すぎるのと確かに『厚生局違法法術研究事件』の都心部に現れた不死人のなれの果てを対処するために東都警察ご自慢の法術対策部隊の隊員が空を飛んで空から攻撃をしている映像は誠も見ていたので何も言えなかった。
「それに力だ。俺はお蔦と住むためにかえでに屋敷を用意してもらうまではアパートでは年中電気、ガス、水道が止められていた。それはもう苦しい生活をしていたんだ。そこでアメコミヒーロー映画をランに見せたことを思い出してアイツに整備班の備品から炭素の棒を持ち出してアイツに手渡して思い切り握ってくれってお願いしたの」
ここでまた嵯峨は意味不明なことを言い出した。
「炭素の棒を握る?なんですそれ?炭素……あれですか?ダイヤモンドでも作れるわけがないじゃない……」
誠は侮っていた。ランは『人類最強』なのである。
「それが出来ちゃうんだな。アイツには簡単に。それを持って俺はすぐに質屋に飛び込んだ。しかし世の中残酷だよね。その質屋はダイヤモンドではあることは認めたが、その結晶の中に結晶化しきれなかった炭素の粉末があるのを見つけてすぐにそれが人工物であることを見抜いたんだ。人口のダイヤの原石なんて言う物は一文の値打ちも無いというのがその質屋の回答だった。質屋が言うにはその炭素の粉末の無い部分を加工して出されたらたぶん天然のダイヤだと思って大金で引き受けてただろうというんだが……そんなダイヤの加工なんて専門業者にお願いするお金なんて無いもんね。何なら俺の部屋にそのダイヤの塊があるからお前さん欲しい?加工すれば天然モノを偽装出来て大金稼げるから」
嵯峨はにやにや笑いながらそう言った。炭素の棒からダイヤモンドを握力だけで作ってしまう。ちっちゃなランの脅威のパワーに誠は言葉が無かった。




