第186話 『専業主夫』とパート従業員
「そうすると……僕にはかえでさんかリンさんの夫になる以外人間扱いされる道は無いんですね……そうすると隊をやめなきゃいけなくなりますね……」
誠は落ち込んだようにそう言った。それを見て嵯峨は表情を曇らせてソファーに座り直しタバコに火をつけた。
「そりゃあ困るなあ……お前さんの05式乙型。お前さん用に西とひよこで徹底的に『法術増幅システム』のカスタマイズをしているんだよ。お前さん以外じゃあの機体の性能のすべてを引き出すことは出来ない。それは困る……実に困る」
嵯峨は困るという割にはまるで面白がっているような顔をしてそう言った。
「神前さあ、うちの管理部ってパートの白石さんをはじめとするパートのおばちゃん達で動いてるじゃん」
突然、嵯峨は話題を変えてきた。誠は戸惑って静かにうなずいた。
「お前もさあ、かえでの夫になった場合はかえでの家臣の性の相手をするとき以外は暇だよね。その身体だ。鍛えて無いとすぐに衰えが来るよ。この近くにはいいジムが無いって運動が好きなパーラが言ってたから体を鍛えるのに何かをするってのも良いことだよね?」
こういう時には何か悪いことを考えているということがありありと分かる表情を浮かべて嵯峨はそう言った。
「で?僕に何をしろと?僕はもう隊員じゃ無いんですよ、かえでさんやリンさんの『専業主夫』なんですから」
誠は嫌な予感がしてそう返した。
「うん、だからパートとして来てよ、うちに。法術特捜の捜査とかは別に手伝う必要なんか無いから。日頃は身体を鍛えるためにランニングをして、05式が必要な時だけそれに乗る。そういうパート従業員。時給は……そうだな。経理の人達が750円だから、800円。出動の際は思い切って1600円出すよ。それでどう?」
嵯峨の嬉しそうな笑みに誠は心の底からげんなりした。
「それって……要するに人件費を安くあげたいってだけの話なんじゃ無いんですか?どうせボーナスも出なくなるんでしょ?下手をしたら交通費の上限も決められててそれ以上は自腹とか言う……」
誠の言葉に嵯峨は良い笑顔を浮かべた。
「なんだ、そこまで社会が分かってきているのか。随分と成長したじゃないか。これもランの奴の指導のおかげだな。お前さんの言うこと全部正解。百点あげる」
嵯峨は嬉しそうにそう言うが誠はただその態度に腹が立つばかりだった。
「確かに『人間』にはなれましたけど、給料が減ったら何の意味も無いじゃないですか!」
誠は怒りに任せてそう叫んだ。
「だって『専業主夫』だもん。稼ぎはかえでや渡辺が家に入れるんだろ?だったらお前さんはなにも困らないじゃないの。まあ、二人ともすぐにお前さんの子供を欲しがるだろうけど、それは我慢してね。俺にもこの隊を作った目的があるから。その目的が達成されればかえでか渡辺の子供をいくら作ろうが俺は一切口を出さないから。いいアイディアだと思わない?」
誠は思った。この男は『鬼』だと。




