第181話 それは『主夫』でなくて『ヒモ』であり、ならば自分もとリンは言った
「かえで様。それは『主夫』ではなく、『ヒモ』と一般には呼ぶんですよ。お分かりになりますでしょうか?誠様、世間様から『ヒモ』と呼ばれる生活……『アダルトグッズ』や『ハエ人間』と呼ばれる生活とどちらをお選びになりますか?」
信号待ちから解放されてアクセルを吹かしながらリンはそう言った。
「そうなのか……、じゃあ誠君は僕の『ヒモ』になってくれるよね。こんな幸せな人生を送れるんだ。うれしいに決まってるよね?」
そう顔を近づけて来るかえでを見ながら誠はげんなりした表情を浮かべた。
『『主夫』ならまだ格好がつくけど……僕の立場は『ヒモ』?そんなの同窓会の時に今の職業は?って聞かれて『ヒモ』ですって答えるの?それはちょっと……』
誠は心底呆れ果てながらいつでも誠の唇を奪うつもりでいるかえでを見つめていた。
「かえで様。かえで様の提案は家宰である私としてはあまり良い考えには思えません。誠は元『アダルトグッズ』だった存在。そのような存在がいみじくも甲武四大公家の当主に有らせられる方の『ヒモ』であるという事実は家臣として認めるわけにはいきません」
リンはきっぱりとした調子でそう言い切った。
「ほほう、リンは僕と誠君に嫉妬しているのかな?そう言えばリンは僕に無断で誠君に夜這いをかけているからね。あれかい、僕達の間に入り込もうとでも考えているのかな?」
かえでは誠から顔を話すとリンを見つめて鋭い目つきでそう言い放った。
「さすがはかえで様。察しがよろしいようで。このリン、すでに侯爵の爵位を持つ独立した貴族としてかえで様にお仕えする身です。ですが、あくまでかつては男共におもちゃにされた汚れた身体であることは自覚しております。ですので、『アダルトグッズ』である誠様を夫として迎えることにより、同じ性の道具にされたもの同士で所帯を構えるのがふさわしい事ではないかと私は考えます」
リンは運転中の前方から目を逸らすことなくはっきりとそう言った。
『いやあ、リンさん。リンさんの悲しい過去は僕も知ってるし、そのことでリンさんを色眼鏡で見たことは無いけど、何も僕まで『性のおもちゃ』と決めつける事は無いんじゃないかな……そもそも僕は童貞だし』
誠はそんなことを考えていたが口にすることは出来ないでいた。
「なかなか、興味深いことを言うようになったね、リンも。昔のまるで機械のようだったリンからは考えられない成長具合だ。そうして家臣が成長していく様は主君である僕としてはうれしい限りだ。良いだろう、ただ易々と僕が誠君を手放すと思ったら大間違いだよ、リン。僕は狙った獲物は必ず手に入れる。それを信条としているんだ。それだけは忘れないで欲しい」
かえではまるで誠を手に入れるのは自分に決まっているという自信にあふれた口調でリンに向けてそう言った。
「かえで様ならそう言うと思っていました。それでこそ我が主君です。家宰としてお支えする買いがあるというものです」
リンは納得したようにそう言うと車を『菱川重工豊川工場』のゲートへと乗り入れた。




