第158話 やって来たのは『救いの女神』では無く話をややこしくする女だった
「おい!アメリア!部屋に行かねえと思ってたらこんなところに居やがった!とっとと帰る……かえで!リン!テメエ等その恰好はなんだ!また夜這いか!今日は対法術師用に専用弾を用意してきて有るんだ!今日こそその頭に風穴をあけてやる!」
入って来たかなめはすぐさまいつもの脇の革製の茶色いホルスターから愛銃スプリングフィールドXDM40を取り出しマガジンを叩きこんでスライドを引いた。
「西園寺さん!待ってください!人の部屋で発砲は!」
必死になって叫ぶ誠だが怒りに狂っているかなめの耳には届かなかった。
「かえで、リン。所詮オメエ等の神前の能力を少し受けて発動できるようになっただけの『干渉空間』じゃこの弾は防げねえ。アタシにも慈悲がある。どっちが先にあの世に行くか……相談して決めろ。待ってやる」
誠達に銃口を向けたかなめはそう言って殺人狂の笑みを浮かべた。
「かなめちゃん、そんなことはよしなさいよ。それにこれは夜這いじゃないの。これは『アダルトグッズ』のお試し使用なの」
アメリアは立ち上がるとそう言ってかなめの右手の銃に手をやった。
「『アダルトグッズ』のお試し使用?だんだそりゃ?アメリア……どうせテメエが何か悪ふざけをしてこうなったんだろ!」
瞬間核融合炉で集中力が続かないことが個性のかなめの怒りの矛先はすぐにアメリアの方に向いた。
『よかった……これで人間に戻れる……有難う……西園寺さん……』
誠の両目からかなめに対する滝のような感謝の涙があふれだした。
「それはね、私が上官として部下である誠ちゃんを『アダルトグッズ』としてネットオークションに出品したのよ。そしたらそれをリンちゃんが落札した。さらに誠ちゃんには同梱商品として『許婚』であるかえでちゃんという『アダルトグッズ』がセットとして同梱されている。そしてリンちゃんが今まさにその初使用をしようとしている訳。なにかおかしいところがある?」
アメリアはなだめすかすようにかなめに向けてそう言った。
「あのー、僕は一度も自分が『アダルトグッズ』だと認めたことは無いんですけど。アメリアさんの言い方だと僕が自分を『アダルトグッズ』と認識していることがすべての前提になりますよね?西園寺さん。この話はおかしいと思うでしょ?」
誠は助けを求めるようにかなめにそう言った。
「そうか、ネットオークションねえ……アタシはあんまり信用してねえから良く分かんねえんだ。ちょっと待てよ、アメリア、オメエの出品しているサイト……ああ、ここか。そこで、『アダルトグッズ』で落札済み……ああ、これか」
サイボーグであり、ネットと直結した脳を持つかなめはどうやらアメリアのオークションサイトを検索しているようだった。
「西園寺さん。なんでそこで、いつものように『こんなの認めねえ!アメリア!射殺してやる!』の一言が出ないんですか?なんでアメリアさんの出品サイトを検索してるんですか?」
誠は急に冷静にネットの検索を始めたかなめを見て自分の端末を取り出してオークションサイトを開いた。
アメリアと誠は趣味が似ていることもあって時々オークションサイトで競り合うことも有ったのでアメリアのアカウントは誠も覚えていた。誠はそれをたどってアメリアの出品履歴を検索した。
その最新出品画面には何の写真も無い画像と落札金額30億円という文字が躍っていた。
「ああ、30億円で僕は売られたのか……良い値段だな……プロ野球選手だってこんなに貰ってない。喜んでいいんだろうか、悲しむべきなんだろうか……」
誠は大きくため息をつきながら脳内で検索を続けているために動きを止めたかなめに目を向けた。




