第150話 貧しき公家の生活
「かなめさんが変なのは昔からですし、麗子さんが少し足りないのも昔から……何も変わって無いですわね」
スーツ姿に長すぎるように見える髪が目立つ響子はそう言って笑っていた。
「じゃあ、三人はそれからずっと一緒だったの?よくこんな変態と付き合えたわね。それともう一人は……かなり残念。響子さん。あなた本当に出来た人ね」
アメリアはビールを飲みながら感心した様子で響子を見つめた。
「そんな……二人とも四大公家次期当主の人ですもの。私みたいに九条家の血は継いでいても、官位も無い、爵位も無い、所領は本家から捨扶持として与えられた小さなものしかない貧乏公家が付き合えるような人ではありませんわ。お仲間に入れてもらえただけで幸せでした」
響子はしみじみとしたくちゅでそう言いだした。
「そうだよな、幼年校の入学式で響子はつぎはぎだらけの汚い袴を着て端っこの方でじっとしてるだけだった。すぐに上流貴族しか入学の許されないはずのこの学校になんでこんな平民にしてもみすぼらしいような餓鬼が居るんだって上級生に囲まれて……」
かなめはラムを飲みながら昔話を始めた。
「その時、颯爽と救いに現れたのが私とかなめさんですわ。かなめさんは見た目は今と変わらない大人の姿で、今と同じように銃を持ってましたから上級生もそれに恐れをなしてすぐに逃げ出しました。それからはずっとこの三人はお友達。皆さん、良い話ですわよね」
得意げにそう言う麗子だが、この場にいるほとんどが小学生が銃を持って歩いていたという事実の方に気が言って良い話とはお思えないでいた。
「そうです。当時は父も病気で亡くなって……私は一人でした。屋敷の修繕もままならず、雨漏りばかり。本家から九条家の名を汚すのかということで使用人を雇わされたのですが、これも所領の収入を使用人に渡せば食事をするのもままならないくらいのお金しか残らない。着物なんて買えませんし、幼年校に行くのも私一人20キロ徒歩でした」
響子の育ったあまりに過酷な環境に一同は息を飲んだ。
「でも二人と出会って私は変わりました。麗子さんは自分に余った着物があると言ってよく着物をくれましたし、食事が無いということでよくかなめさんの御所にお食事に御呼ばれしたこともあって……そのころにはほとんどかえでさんの姿は見なかったんですけど、かなめさん。あれからかえでさんはどうしたんですか?」
響子は不思議そうにかなめに尋ねた。黙り込むかなめに代わってはきはきした調子でかえでが顔を出した。
「ああ、響子さんも知っての通り、西園寺御所にある僕達の家はあまりに庶民的すぎて僕の趣味には合わないということでお母様の住む別棟で暮らすようになったんだ。それに当時は自分の屋敷が豪華すぎて嫌だと言ってうちの家に転がり込んで来た復員してきた惟基義父様と茜さんが暮らしていたから部屋が足りなくてね。それもあってお母様の所で生活を始めた。ただ……お姉さまが時々呼び出しに来て僕をおもちゃにしてくれるのでそれはうれしかった……」
一同は再び、西園寺姉妹の歪んだ姉妹愛にただひたすらため息を漏らすばかりだった。




