第149話 犬と人間の区別がつかない馬鹿
「それにしても皆さんは仲がいいんですね……田安中佐とかえでさんは別ですが」
誠はビールを飲みながらかなめ、麗子、響子、かえでを見回した。
「そうだな、麗子とは三つの時、響子は修学院女子幼年部の時からの付き合いだからな」
かなめはしみじみと遠くを見るような目をしてそう言った。
「そうですわね。でも、かえでさんを人間扱いするまでには時間がかかりましたわ。私が初めてかなめさんの家に行った時もこの男女は全裸で首輪をつけられて庭の門柱に括りつけられていましたもの。そんな生き物が人間だなんて……響子さんに言われるまで気づきませんでしたわ」
麗子の言葉にこの場の空気が一瞬で凍り付いた。
「おい、西園寺。貴様は日野をどういう育て方をしたんだ?当時は日野は二歳か三歳だろ?それを首輪をつけて庭に縛り付けていた?虐待を通り越してそれは犯罪だ」
カウラはあまりのかなめの異常行動に呆れ果てたようにそう言った。
「いいじゃねえか。本人がそうしてえっていうからそうしてたんだ。もっとも、うちに最初に響子が居た時もそう言われた。ああ、そん時まで麗子はかえでの事を本気で犬だと思ってたんだよな?笑っちまうぜ、これマジの話で、アタシがかえでの事を犬だと言って蹴ったり殴ったりしてたらそれを鵜呑みにしてたんだ。コイツはやっぱり馬鹿だ」
かなめは自分の異常行動に反省するどころか得意げに麗子の頭の足りないところを暴露した。
「まあ、なんて言いようでしょう!あんな姿をした人間なんて居ません!だからかなめさんが言うように犬だと思ってたんです。それにお尻にしっぽまで有りましたからどこをどう見ても犬ですわ!今は立派に四大公家末席の貴族様とおっしゃっていますが、かえでさんの本質は犬。それだから犬があまり好きではない私にとってはかえでさんを好きになる要素なんて有りませんの」
麗子は自分の馬鹿さ加減を棚に上げてそう叫んだ。
「僕はお姉さまの愛犬であって、麗子の犬では無い。ただ、麗子に犬扱いされることでお姉さまが最高の笑みを下さるから従っていたまでだ。そんな事も分からないとは情けない奴だ」
軽蔑したような視線を麗子に向けるかえでだが、この場にいるほとんどの人間はそんな扱いを喜んでされるかえでの変態性にむしろ疑問を持っていた。
「でもさあ、響子の奴がかえでのことを可哀そうとか言うんだ。だから、その日から人前では人間の格好をすることを許してやった。偉いだろ、アタシって」
かなめはラムを飲みながら上機嫌にそう言った。
「あのー、それって全然自慢になって無いんですけど。西園寺さん、それ本気で言ってます?言ってそうなところが少し怖いんですけど」
誠にはそうツッコむのが精いっぱいだった。




