第148話 『公家』と『武家』
「そう言えば公家ってなんです?武家は軍人や警察官ってのは分かるんですが……」
社会常識ゼロの男、誠はそう言って首をひねった。
「おいおいおい、公務員は全員軍人と警察官か?文民のキャリア官僚はどうするんだよ。そこが公家の仕事場だ……ってまあ一応上級職の官僚には試験があるが……どこの試験にだって裏口がある……それに上級職の官僚試験を受けようとすると大学を出るだけじゃなくて専門の予備校に言って勉強しなきゃ受からねえ……予備校に行かせるような金があるのは貴族だけ……それと一部の金持ちの平民位だ。まあ、響子はまともに外交官試験をストレートで通った秀才だからな。貧乏公家とは言え頭が良ければそれなりに出世できる。しかし、それでも官位が低いと『ガラスの天井』である程度で出世が止まる。それがあの国だ」
かなめは響子を見ながら冷たくそう言った。
「かなめちゃんは軍人よね、公家なのに……なんで?お父さんみたいに外交官になれば良かった……無理ね、かなめちゃんが外交交渉なんかしたらすぐに戦争になるから」
アメリアは烏龍茶を飲みながらそう言った。
「アメリア!オメエはアタシを何だと思ってるんだ!アタシは強くなりたいから軍人になったんだ!それに軍人なら敵は撃ち放題だからな。外交官じゃ銃を撃ったら職務規定違反だろうが!そんなのやってられるか!」
かなめの一言に誠はかなめは本当に銃が無いと生きられない人間なんだと改めて思いながらビールを飲んでいた。
「『違法軍人』ですわ」
響子は最上位の貴族とは思えない慣れた手つきで鶏腿串を口に運びながらそう言った。
「なんです?それ」
その庶民的に庶民的な食事を食べる響子の発した聞き慣れない言葉に誠はそう言った。
「本来公家は軍人になれねえんだ。それをアタシの伯父……西園寺孝基。人呼んで『紅藤太』。アタシの親父の兄貴で本来は西園寺家の惣領に当たる人だ。その人が軍人に無理やりなったのが初めだ……西園寺家は公家の最高の家だからな……公家の模範にならなきゃならねえところを無理を通したんだ。それまでも一代公爵家クラスなら軍人の公家もあったが四大公家でも軍人を出して良いってことになった。だからアタシは軍人になった……強くなりたかったからな……こんな体だから」
かなめはそう言って納得できない表情の誠を説得した。
「身分制って面倒なのね」
アメリアは珍しくかなめに同情するようにそう言った。
「そうだな。何もかも前例前例って……面倒なんだ」
うんざりした口調でかなめはそうつぶやいた。
「それは伝統を大事にするってことは重要なことだと思うよ。少なくとも僕は今の甲武の良いところは残したうえで身分制を壊していきたい」
それまで沈黙を守り微笑んでいたかえでははっきりとした調子でそう言った。
「ものは言いようだな。オメエは岡場所で女を買いたいだけだろ?この変態が」
かなめは吐き捨てるようにかえでにそう言い返した。
「それは……確かに事実だけどその悪習も身分制が崩壊すればなくなるだろう。でも僕は魅力的だからわざわざ金を出さなくても寄って来る女性には事欠かない。その点は安心してほしい」
かえでは余裕の笑みを浮かべてかなめに向けてそう言った。
「かえで……そのことのどこに『安心してほしい』で会話が終わる要素が有るんだ?教えてくれ」
かえでのナルシズムにかなめは死んだ目をして妹の顔を見た。
「でも大変なんですね……西園寺さんは……でもこれからは関白になるんだからもっと大変になる」
誠はかなめのこれからを案じてそう言った。
「同情してくれるか?神前。こんな変態な妹を持っちまった姉の不幸をよ」
誠のフォローにかなめは泣き顔を浮かべる。
「そんな顔をしても何にもならないわよ」
アメリアはなぜかうれしそうな顔をしてかなめに向けてそう言った。
「うっせえ。オメエは一生ネットオークションに嵌ってろ!」
アメリアが言うのにかなめがムキになってそう返した。
「それより……麗子さんピッチ早すぎ。かなめちゃん、麗子さんっていつもこんななの?でも顔にまるで出ないのね。酒は結構強いみたい。さすがは『ザ・お姫様』」
アメリアは褒めているのか貶しているのか分からない口調で麗子に向けてそう言った。
「ビールなど水みたいなものですわ。喉が渇けばビールを飲む。勤務中でも私は良くビールは飲みましてよ」
平然とそう言う麗子に一同はただひたすら呆れ果てた。その様子に上司を麗子しか見たことが無い鳥居が不思議な顔をして見回している。
「それじゃあうちの島田君や隊長と何も変わらないじゃないの……つまり殿上貴族のお姫様とヤンキーのレベルは一緒ってことなのね」
麗子の爆弾発言に呆れ果てるアメリア。誠はただこの奇妙な会話について行けず豚串を頬張ることに集中していた。




