第147話 身分制国家の貧しき人々
「でも田安中佐は鳥居曹長のことは認めてらっしゃるんでしょ?聞いた話じゃ鳥居さんの家って相当貧乏みたいじゃないですか」
誠はそう切り出してみた。
「鳥居は士族です。士族にはプライドが有ります。ただの平民とはまるで違います」
麗子はビールを飲みながら誠の言葉にそう反論した
「でも貧しいわよね……甲武の士族は軍縮でかなりの数の士族がその職を追われて失業しているはず。まあ、あそこの武家は『武士は食わねど高楊枝』の国だから。士族は名字があるから名字の無い金持ちの平民が名字欲しさに金を払って士族の株を買うなんて言うことが平気で行われているわよね。沙織ちゃんの家にもそんな話が来たりしたんじゃないの?」
鳥居に向かってアメリアはそう言った。
「そんな話はしょっちゅう来ますよ。この東和に来て官給品ということで携帯端末を貰ったんですが、そこにも毎日のようにそう言った士族の株を欲しがる金のある平民向けに東和なんかに住む下級士族宛にメールを送る業者からのメールが数件来ますから」
鳥居はそう俯きながら言った。
「家を売るなんてもってのほかです!武家には何をしても生きていきたい平民とは違って誇りというものがあります!鳥居、お金に困ったときはいつでも私に相談するのですよ。多少のお金ならすぐに用意して差し上げますわ。これまでの忠誠を私はそれほどまでに買っておりますから」
麗子は『征夷大将軍』という武家を代表するものとしてそう言った。
「アタシは公家だから関係ねえな……公家だって貧しいのはいるぞ。昔の響子の事を思い出してみろ。……官位が低いと一生下級役人で食うか食わずの暮らしだ。響子の昔の家だって雨漏りを直すこともできないひでえ屋敷だったじゃねえか……オメエもよく行ったから覚えてるだろ?」
麗子に向かってかなめはそう言って笑いかけた。
「身分とは便利なものだな。偉ければ色々言えるが低い身分では何もできない。貴様や日野や渡辺のような豊かな貴族しか私は知らないが……ああ、西が平民だったな。あの西も西という苗字はあくまで仮で実際苗字なんて言う物はアイツには無い。そしてアイツの乗っている車……よく動くなという代物だ。恐らく甲武ではあんな車すら平民は買えないのだろう」
殿上貴族が居並ぶさまを見て嫌味のようにカウラはそう言った。
「カウラ、嫌味かそれは」
その言葉にかなめは明らかに不機嫌になった。
「別に……そんなつもりで言ったわけではないが」
かなめは口を出してきたカウラをそう言ってにらみつけた。




