第145話 そうして夜は更けていった
「ネットオークションだ?下らねえこと話してんじゃねえよ。それよりビールがねえな。頼むか?」
自分の関心のない話題について行けずわざとらしくかなめはそう誠に語り掛けた。
「僕のもお願いします。たまにはワインでは無くビールというのもいいものだね」
かえでが空になったジョッキを差し出す。
「パーラ、お蔦を呼んで来い!カウラとリンは烏龍茶な!飲酒運転で警察官が捕まるわけにはいかねえんだ」
相変わらず人使いの荒いかなめはそう言って焼鳥を頬張っていたパーラに目を向けた。
「いつも私ばかりね。かなめちゃんもたまには自分で動くとかした方がいいわよ。それじゃあまるでアメリアじゃないの」
態度のでかいかなめに辟易しながらパーラはそう言って立ち上がった。こういう時に便利に使われているパーラに誠は少し同情していた。
「私もビールでいいですわ」
麗子は結構な酒豪らしくビール三杯目だというのに顔色一つ変えていない。
「自分もです」
鳥居は少し頬を赤らめながらそう言ってジョッキを差し出した。
「西園寺の言う通りだな。貴様もたまにはいい事を言う。烏龍茶で」
「私ももう烏龍茶で良いわよ。あんまり飲み過ぎると、『アダルトグッズ』のリンちゃんの初使用の際に寝ちゃうと嫌だもの」
カウラもアメリアも少し遠慮がちにそう言った。
「ご注文かい?『特殊な部隊』の皆さんはたくさん飲むからうちとしてもうれしい限りだよ」
マメなパーラに呼ばれて現れたお蔦は笑顔で接客する。
「私はレモンサワーが飲みたいんだけど……鳥居さん、さっきから見てたらあまり飲んでないじゃないの。あなたも飲む?レモンサワー。甲武じゃこういったものは珍しいでしょ?」
気の利くパーラは深刻な話題が出た後で緊張して飲みが進まない鳥居にそう声をかけた。
「ありがとうございます。じゃあそれで。確かに炭酸飲料と言うと甲武にはビールとサイダーくらいしかありませんから」
鳥居は感謝しながらパーラに向けて静かに頭を下げた。
「車さえなければ私もレモンサワー一択なんだけど烏龍茶。いつも損をするのは私なのね。田安中佐と響子さんもビール。カウラちゃんとアメリアが烏龍茶。神前君は?」
気を利かせてパーラが誠に振ってくる。
「ああ、僕もビールで……西園寺さんは……」
誠は先ほどの歴史的瞬間に立ち会った緊張感から酔えずにいる自分を感じながら視線を新生『関白太政大臣』であるかなめに向けた。
「アタシはこれがある。これさえあればアタシは十分なんだ。それ以上のものは望まねえよ」
誠に向けてかなめはラムの入ったグラスをかざした。
「以上かい?あのちっちゃいランさんが来るとあの人は人間離れした飲み方をするからうちは大儲けなんだけど、あの人は滅多にうちに寄りつかないからねえ……新さん、用件は済んだんだろ?下に行くよ……色々話が有るし……今日の夜の事とかね!」
お蔦は色気を振りまきながらそう言って二階の座敷から出ていった。
「今日の夜か……楽しみだなあ……さあて、どんなふうにお蔦を鳴かせるかな?」
下品な笑みを浮かべて嵯峨は階下へと姿を消した。




