第142話 『関白宣言』
「それでだ麗子」
急にかなめの表情が緩み、事態の状況がまるで呑み込めていない様子の麗子に視線が向いた。
「なんですの?」
少しおびえたような様子で麗子はかなめの呼びかけに答えた。
「アタシは昭和の歌が好きなのはオメエも知ってるよな?」
かなめは明らかに何かを企んでいる笑顔で麗子にそう言った。
「そうですわね、小さなころころからあの楽器……『フォークギター』とか言う物で色々聞かせていただきましたわ……それがなんで今出てきますの?」
麗子は理解しかねるという調子で小首をかしげてみせる。
「その中に昭和の名曲『関白宣言』という曲がある。それは『亭主関白』を宣言する歌だ。つまり『関白』は亭主であるべきなんだ?これは理解できるな?」
勝ち誇った笑みを浮かべてかなめは麗子に向けてそう言った。
「それはおかしいですわ!私が夫!かなめさんは妻!これは『征夷大将軍』である私が決めたことです!」
憤慨したように麗子はそう言い返す。
「アタシは実権を握ったあの歌のような例えではないリアルな『関白』なんだ。だから夫はアタシだ。そしてオメエは貞淑な妻になれ。これは『関白』としての命令だ」
誠は思った『この人言っちゃったよ』と。
「そんな……私は……」
凄みを利かせたかなめの一言に麗子は怯んだ。
「まず、アタシより先に寝るな。アタシより後に起きるな。飯は旨く作れ……ってオメエは料理は出来なかったな。じゃあ、『徳川譜代』の連中に言って教われ。いつもきれいでいるのはオメエの自慢だからそれは良い。あとアタシは浮気はするからな。そこは覚悟しておけ」
かなめは麗子に向けて滅茶苦茶な注文を付けた。
「なんですのそれは!それは私がいつもかなめさんに求めていたものでは無いですか!そんなものは受け入れられませんわ!」
明らかに上から目線のかなめに麗子はそう言って反論する。
「馬鹿、昔から『関白』ってのはそう言うもんなんだ。これは伝統なんだ。オメエの『征夷大将軍』の地位も名前だけの『伝統』であるだけの地位だ。だからその伝統にしたがうのはオメエの義務だ。その義務に従えねえようじゃアタシ等は離婚だ」
かなめは非情にそう言い切った。
「かなめちゃん、離婚って結婚してなきゃできないわよ。つまり今かなめちゃんは田安中佐に『結婚してくれ』と言ってる訳ね……田安中佐。今の言葉はかなめちゃん風の愛のプロポーズよ!今受けないとかなめちゃんと結婚する機会は永遠に失われるわよ!答えちゃいなさいな!『はい!』って」
面白がるようにアメリアは麗子に向けてそう言った。
麗子はしばらく迷った後、静かに三つ指ついてかなめに頭を下げた。
「不束者ですがどうぞよろしくお願いしますわ」
麗子の頭を下げることにかなめは満足しているようだった。
「なるほど、これでお姉さまは誠君争いから脱落したわけか……これは意外な効果が有ったのかもしれないね」
ほくそ笑むかえでを見てかなめは自分が勢いで言ったことの意味をようやく悟って顔を真っ赤に染めた。




