第137話 四大公の決断の時
「かなめお姉さま。響子様の言葉の意味をお分かりにならないわけが有りませんよね?」
かえでの口調はどこまでも柔らかかったが、その表情は誠が見たこれまでの一番真剣な表情よりも硬く厳しいものだった。
「大体の推測はつく……しかし、それが今日か……、確かに引っ張り出すのが一番難しい麗子がこの場に居るってことは今日しかそんな機会は無い。それが麗子嫌いのオメエがここに居る理由なんだろ?」
そう言うとかなめは落ち着いた様子でショットグラスのラムを口に運んだ。
「なんですの?私を引っ張り出すのが面倒だなんて!それが夫に対する態度ですか!」
状況のまるで理解できていない麗子の口をかなめがふさいだ。
「冗談の夫婦ごっこはこれまでだ。かえで、オメエが仕組んだんだろ?じゃあ、今回の議題を言い出す義務もオメエに有る訳だ。四大公家筆頭と当主としてそいつを聞こう」
静かに落ち着いているかなめ。誠から見たそのかなめの姿はこれまでにない貴人の表情を讃えていた。
「いいでしょう。現在は甲武国には最高位の貴族の地位が空白の状況が続いている。これをいいことに一部の貴族達が政府の意に反する行為を行うことをさもそれが当然の権利であるかのように主張してはばからない。その状況を……」
かえではいつものさわやかな笑顔を封印して真剣な口調でそう切り出した。
「かえで、前置きは良い。そいつは島津時久元帥と仲間達の事だろ?で?そいつ等を黙らせるために何が出来る?アタシに何をしろとオメエは言いてえんだ?」
エリート出身らしく状況説明をしようとする妹のかなめに対して非正規部隊上がりの姉のかなめの関心は本題にしかなかった。
「かなめさんを関白太政大臣に推挙します。これはかえでさんの発案です。私も同意しました。あとは麗子さんと……かなめさんあなたの同意が有れば四大公家の一致した意見として宰相を通じて全貴族、前政府関係機関に通知される手はずは整っています」
響子は厳しい表情を浮かべて隣に座っていつも通りラムを飲んでいるかなめに向けてそう言った。
「なるほど、外堀は埋まってるわけだ。あとはこの馬鹿とアタシの同意を得られればアタシは自動的に関白太政大臣にならざるを得ない……そう言うわけか。分かりやすくていいねえ……響子の方がかえでよりも物事を分かりやすく伝えることが出来る。さすが外交官は口で戦争している人間だけある。アタシのような心の荒れた人間にでもそのくらいのことは理解できるわ」
ショットグラスとテーブルに置くとかなめは皮肉のこもった笑みを浮かべて隣の響子を見た。
「と、言うわけだ。おい、右大臣。オメエはどう思うんだ?オメエの一言で歴史が変わる。丁度アタシやかえで、そしてオメエの先祖に当たる田安高家の立場にオメエは今いる。その責務。オメエの無能を理由に逃げるわけにはいかねえんだ。そのくらいのことは分かるだろ?」
かなめは響子の向こうで呆然と間抜け面を晒している麗子に向けてそう言った。




