第136話 意外なる訪問者
「みなさん、盛り上がっているようだね……という割には笑顔が見えないようだね。日常から笑顔を絶やさない暮らしを目指す。それが僕達四大公家の当主の義務だと僕は思うけどどうだろうか?」
澄んだ声が部屋に突然響いた。一同は階段の方に目を向けた。
誠はそこにいかにも高級そうなスーツ姿のかえでといつもの執事服のリン、そして初めて見る膝まで髪の伸びた紫の地味な女性用スーツの美女の姿を目にした。
「いきなりですわね、かえでさん、なんですの?嫌味でも言いに来ましたの?それと、響子さん。かえでさんなんかと一緒に居るとまた新聞に色々書きたてられますわよ。あなたは今は『官派』の後ろ盾のないただの左大臣。そして外務省の東和担当課長の職にあるのでしょ?要らぬ詮索で九条家の名前に傷を付けるのは感心しない事ですわよ」
かえでに対して敵意むき出しに麗子はそう言った。その言葉でかなめ以外の『特殊な部隊』の面々はそのスーツを着た髪の長い女性が『官派』の首領とされていた四大公家第二位の地位にある九条家当主、九条響子その人であることを知った。
「そうだぞ、響子。こんな変態と付き合ってるとろくなことにならねえぞ。それともすでにかえでに調教済みか?ああ、響子は昔から真面目だからそう言うこととは縁が無さそうだな……まあ、冗談はこれくらいとしてだ。オメエ等の面を見ればわかる。何かあってここに来たんだな。こんな豊川くんだりまで東都の甲武大使館勤めの響子が来るってことは……ここに四大公家当主が一堂に会するってことは……それなりの意味があると思って良いんだな?」
それまでのふざけた調子を引きずっていたかなめの表情が急に引き締まり、手にしていたタバコを揉み消してかなめは自分の隣に響子に座るように麗子を押しのけた。
「かなめさん!何をなさるというのですか!それが妻が夫に対する態度ですか!」
頭の具合の良くない麗子はかなめの真意など分からないというようにそう言い返すが、かなめの見るものに威圧感を与える視線を前にしておずおずと引き下がった。
「この四人が揃った意味……いくら馬鹿なオメエにも分かるだろ?この場は仮の『殿上会』だ。この四人が揃えばその決定は『殿上会』のそれと同じ決定をすることが出来る。オメエの事が大嫌いなかえでが忙しい響子をここに呼んでここにいる。その意味くらい分かれ」
かなめの隣に九条響子が座り、麗子の隣には明らかに麗子を見下す視線を向けているかえでが座った。リンはわきまえているというように下座で空いていたパーラの隣の席に腰を掛けた。
「お姉さま。さすがに馬鹿な麗子には分からないだろうけど響子さんがこの場に来たことの意味は分かっているようだね」
かえでは笑顔でそう切り出した。
「分かるもなにもねえわな。四大公家当主が一堂に会することの意味。それは年に一度しか定期的に開かれることが許されない『殿上会』と同格の意味を持つ決定事項を決める際の必要条件だ。かえで、響子。オメエ等何を企んでる。四大公家筆頭の当主として、その話を聞こうじゃねえか」
明らかにかなめの目は敵を前にした警戒をしている時のそれだ。誠の目にはどうしてもそのように見えた。
「かなめさん。そんなに硬くならなくてもよろしくてよ。私がここに来たのは外務省の仕事のついで……千要で甲武の友好パーティーがありましてね。その帰りにかえでさんに誘われましたの。でも、そこでかえでさんからあることを提案された……私もそれに賛同することにした……となると少し重い意味を持ってくることになるかも知れません」
響子の言葉にこれまでふざけていたアメリアも無関心を装って焼鳥を口に運んでいたカウラも手を止めた。




