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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』と『征夷大将軍』  作者: 橋本 直
第二十六章 『将軍様』と焼鳥

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第135話 身分制度の功罪

「そんな目をしても駄目ですわよ。確かにかなめさんが今の身体になったころからお付き合いがあって良くかなめさんの家には行ってました。確かにかなめさんの家には庶民出身の芸人達が広い敷地に長屋を建てて大勢居候しているから彼等に同情したくなるのは分かりますけど……でも考えてみなさいよ。西園寺家の庇護のおかげでその芸人達は日々の生活に追われることもなく芸の道に精進できるんですわよ。東和だったらいくら夢があっても生きていくためにはバイトで日々骨身を削らなければならないのに。妻ならば生家のそのような誇れる事情を皆に説明する。そのくらいのことは出来て当然では無くて?」


 麗子は少し意地悪にそう言った。誠もテレビのタレントが下積み時代にバイトをしていたことをネタにしていることは知っていたのでうなづきながらかなめに目をやった。


「確かにそうだがよう……でも違うんだよ。たぶん麗子にはこの違いは死んでも分からねえだろうな」


 かなめは静かに言葉を飲み込むと気を紛らわせるかのようにグラスのラムを喉に注いだ。


「甲武って良いのね……芸人なら家賃ゼロで暮らせるんでしょ?それだったら私も甲武で芸人になろうかしら?あの国は落語会は女人禁制だけど色物なら女でもできるから漫談師とかにはなれるかも」


 アメリアは冗談めかしてそんなことを口にした。


「アメリアは食えないから落語家の弟子を辞めたんだったわよね。確かに東都のアパートの家賃。あれ見たらだれでも嫌になるわよね」


 アメリアとパーラはそうはやし立てる。


「アメリアさん落語家の弟子だったとか聞いてますけど……本当なんですか?」


 誠は興味半分にそう言ってみた。


「まあね……もう15年も前の話よ。それに2年もいなかったから……毎日師匠のカバンを持って寄席やテレビ局やラジオ局を回って……アタシ背が高いから目立つから端っこにいろって言われて……好きででかいんじゃないわよ!こっちも自棄になって寄席で前座だって言うのに『死神』とか『芝濱』とか長編をやって姉さん連中から嫌味を言われ続けてねえ……それが嫌になって辞めたの」


 アメリアはそう言うと乾いた笑みを浮かべた。


「そんなことより……甲武の貴族制についての議論しなければな。アメリアの芸人話はいつでもできる話だ。甲武四大公家の当主が二人もいる貴重な時間を無駄にするべきではない」


 話題を元に戻そうとカウラは冷静にそう言った。


「甲武の貴族制の論議?そんなもんしてなんになる?親父がもう5年もかけても骨抜きにできなかった制度だぞ。それを支持する『官派』の連中も潰しても潰しても湧いて出やがる。あの国は変わらねえ、いや、変われねえんだよ」


 カウラの言葉にかなめの態度はつれなかった。かなめ自身、貴族制が無くなるとは思っていないのだろうと誠は察した。


「でも、そもそもなんで貴族なんているんです?甲武に。甲武独立当時の日本にだって貴族はいなかったんでしょ?」


 誠のもっともな問いにかなめは呆れたというようにため息をついた。


「あのなあ。さっきも言ったろ?アタシのご先祖の西園寺基が戻しちゃったんだよ、時計の針を。それに麗子のご先祖の田安高家が乗っかって幕府を開こうとしたんだ、甲武に」


 かなめは少し疲れた調子でそう言った。


「幕府……徳川幕府ですか?」


 理系人間で歴史知識の薄い誠が首をひねりつつかなめを見つめる。


「天下を武力で制圧した武家の政権のことですわ……まあ地球への配慮とかがあって田安高家公は幕府はお開きになりませんでしたけど」


「まあきっちり右大臣を世襲する制度を作ったがな。おかげで関白太政大臣は西園寺家、左大臣は九条家、右大臣は田安家、内大臣は西園寺基の次男が開いた嵯峨家から出る制度ができたんだ」


 かなめは知っていて当然という顔で誠を見つめながらそう言った。


「へー……」


 かなめのきつい言葉に誠の反応は薄かった。


「家柄ねえ……その後捏造した家系図を持った地球の日本からの移民が山と押し寄せて早い者勝ちで貴族になったって訳ね……遅れてきた人達は哀れ平民として電気もガスも水道も無い生活を強いられてると……ひどい話」


 アメリアはビールを飲みながらそう言って冷めた笑顔を浮かべた。

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