第134話 『永遠の世紀末の国』、『大正ロマンの国』
「それにしても東和と甲武……『復古主義』が有ったとしてもそんなに違うものなのか?たしかにこの東和も20世紀末日本と何一つ変わらないというが……ああ、住んでいる人間の人種が違うな。東和は遼州人の国、甲武は日本人の国。しかし見た目はまったく同じだというのに……違うものなのだな」
製造プラントごと東和共和国の埼王県能谷市にある実験施設に移送され、そこで覚醒してからと言うものひたすらパチンコに明け暮れる日々を送っていて東和からほとんど出たことが無いカウラはかなめにそう尋ねた。
「確かに人種が違うだろ。東和は遼州人の国で甲武は地球人の国だ。それに東和は『永遠の二十世紀末日本』を模倣し続ける国。それに対して甲武は『大正ロマンの国』ってことで大正時代に無かったものは平民には与えないことを国是としている。大正時代の自分達の先祖はそれで十分生きていけたんだから今でも同じ暮らしをしてたっていいじゃないかってのがその考え方の根本だ。それに……なんと言うか……空気が違うんだ」
かなめはあいまいな笑みを浮かべてそう言った。
「空気が?どういう意味だ?」
カウラはかなめの言葉の意味が理解しかねるというようにそう言った。
「そう『空気』が違う。あれだな甲武の身分制のせいかもしれねえな。誰もが生まれた身分でそのすべてが決められてしまう。ある種の諦めと絶望。そんな『空気』が甲武にはある。その点、そんな『空気』は東和にはねえ。東和は格差を許さないことを国是としている。金持ちにはとんでもない税金をかけてその金を全部福祉に回して貧乏人を助けてる。そんな考え方は甲武じゃ生まれねえんだ」
そう言うかなめの顔は少し寂しげだった。
「それは仕方が無いですわね……世の中には秩序が必要ですもの。かなめさんもその点は理解してほしいものですわね。夫に仕えるのが妻の美徳。甲武の伝統ではそう決まっておりますの」
麗子のその言葉にかなめは舌打ちをした。
「秩序ねえ……身分制なんざ『官派』と『民派』がぶつかり合う理由を作ってるだけじゃねえか」
麗子の現状肯定の姿勢がかなめにはどうにも受け入れられないように誠には見えた。
「そう言うかなめさんはその貴族の扶持で暮らしてるんですわよね……その酒も、葉巻も全部貴族の当主だから手に入る。まあ、私の子を孕んだ時はタバコはやめていただけますわよね。妻として当然の事ですわ」
麗子にそう言われるとかなめは黙り込むしかなかった。誠もかなめの酒とタバコの値段をなんとなく知っているだけにうなづくしかなかった。
「でも、身分とか言われても僕はピンときませんね……やっぱり東和生まれだからですかね」
誠の言葉にカウラと同じく能谷市の製造プラントからロールアウトした『ラスト・バタリオン』であるパーラもうなずいた。
「自分は士族の出でおかげで軍に入れたのは事実だから言えた義理じゃ無いんですけど、確かに甲武の貴族制はどこかおかしいような気がしてきました……特に東和に赴任してからそんな気持ちになることが多いんです」
鳥居の言葉にかなめは我が意を得たりと言うように麗子に目をやる。




