第133話 関白不在の現在の甲武
「関白が宰相はを任命すると言っても……この前効いた話だと関白は今不在だというじゃないですか?宰相は今どうやって任命されているんです?」
誠はそう食い下がった。
「本来なら関白太政大臣が任命するんですけど……」
そこまで言うと麗子はちびりちびりラムを飲んでいるかなめに目をやった。
「あの国、関白今はいねえな」
かなめはあっさりとそう言った。あまりにもあっさりしていたので誠は拍子抜けした。
「じゃあ誰が任命してるんです?宰相を」
誠は思わずそう尋ねていた。
「かなめさんがわがまま言うから……まったく去年の『殿上会』でも良い恥を搔きましたわ!かなめさん、いい加減関白におなりなさい。あなた以外の適任者はいないのです。そうすれば夫である私は『征夷大将軍』、妻は『関白太政大臣』まさに公武合体の完全な夫婦が出来上がる」
麗子はそう言ってかなめに笑いかける。だが、麗子を馬鹿にしているかなめはその言葉を完全に無視した。
「親父は自分のわがままで貴族の位をアタシに譲って平民になった……その場合、アタシか妻……アタシのお袋な、そいつが親父を任命する。アタシは関白にはなってねえから結論は出てるだろ?」
かなめはそう言って笑いかけた。
「西園寺さんのお母さん……」
誠はあの嵯峨惟基を『人斬り新三郎』と呼ばれるまでに鍛え上げたという女傑のことを思い出した。
「お袋にはなんの権限も無いことになってる……まあなってるがな……」
かなめはそう言って乾いた笑みを浮かべた。
「まあそうですわね。制度的には」
麗子もそれを認めてほほ笑む。
「でも『甲武の鬼姫』と言えば西園寺康子女史のことだろ?」
カウラはそう言ってかなめを見つめた。
「まあな。『官派』の面々もお袋には頭が上がらねえんだ……弱みを握られてるからな」
「弱み?」
かなめのあいまいな口調に誠は思わずそうツッコんだ。
「まあな……いろいろとあるんだ。あの国の貴族制って奴のおかげで良い目を見てることがばれると『官派』の連中も平民や下級士族の支持を無くす。ただでさえ親父の平民主義が人気のところへそんな爆弾投下されたらたまらねえだろ?」
「例えば?」
明らかに興味深そうにアメリアがそう言うがかなめは大きくため息をついて署っとグラスからラムを飲んだ。
「アタシに言わせるな……それにアタシが知ってるレベルの話なら甲武の新聞社の記者でも知ってる話だ……そんなのが脅しに使えるか」
「ゆすりの類か……西園寺の母親なら得意そうだな」
「カウラ!そりゃどういう意味だ!」
「言った通りの意味だ。他意はない」
憤るかなめをやり過ごすとカウラはボンジリ串を口に運んだ。
「なるほど……怖い人なんですね、西園寺さんのお母さんは」
「ああ、あれは鬼だ。まあかえでから性癖を抜いて戦闘能力を五千倍にして同じく陰険さを五千倍にしたらああなる。気をつけろよ」
かなめの口からは具体的なことは聞き出せないと誠はあきらめた。




