第131話 将軍様、焼鳥と出会う
「盛り上がってるところお邪魔だったかしら?いいのよ、お話を続けてくださいな。いつもだってそうじゃないの」
いつの間にか階段のところには春子とお蔦、つまり話題の嵯峨の内縁の妻である二人がお盆を手に立っていた。
「いや良いんですよ!並べてください」
かなめはそう言うと自分をにらみつけてくるお蔦に嫌味たっぷりの笑みを浮かべる。
「はい、焼鳥盛り合わせ。おいしいよ、一杯食べとくれ」
お蔦はいつもの遊女上がりらしい色気を耐えた笑み浮かべてかなめの前に皿を置いた。
「お蔦、アタシに色気を振りまくのは止めろ。女に好かれるのは麗子だけで十分だ」
かなめは色気を振りまくお蔦に嫌な顔をしながらラムを煽った。
「そんなことなんかしてないわね、こりゃあ長年そう言うのばかり相手にしてたせいだろうね。花街に居た時も女の客は居たよ。そん時はそん時で結構楽しめたし……かなめ姫様。今晩一緒にどうだい?」
お蔦は辺りを見回すと見慣れない麗子には満面の笑みで接客する。
「お蔦、オメエにはあの性欲お化けの叔父貴が居るんだ。この前だって叔父貴の相手は三人じゃ務まらないとか愚痴ってたじゃねえか」
かなめはそう言って苦笑いを浮かべながらもも肉に手を伸ばす。
そんな中ただ一人、この和んだ雰囲気に入り込めない人物が存在した。
「まあ……これが焼鳥ですの……どう食べれば……かなめさん。妻ならば夫の知らないことを教えるのは当然の事じゃないのかしら」
麗子は初めて見る焼鳥を不思議そうに眺めた。茶色い肉の焼いたものの香りは麗子も気に入っているようだったが、その目は不思議なものを見るような色をたたえて皿の上に並べられた焼鳥の串を見つめていた。
「見て分かんねえかな……串持ってこうだ」
かなめはネギまを手に取るとそのまま口に運んだ。そのまま一気に口に持っていきがぶりとかみちぎる。
「手で串を持つんですの……ちょっとそれは……」
ためらいがちに麗子はレバーに手を伸ばした。それはあまりに恐る恐ると言う調子だったので新しいビールを飲み始めたアメリアのツボに入ったのか彼女は急に咽始めた。
「ああ、田安中佐。こういう食べ方もありますよ。まず、串を持って」
麗子の目の前に座っていたパーラが気を利かせてまず鶏もも串を目の前の小皿に移す。
「そして一切れ一切れ串から外して……」
パーラは器用に箸で串から肉を離していく。
「パーラ。そんな食い方して旨えか?焼鳥は串から直接食う!それが一番!麗子、やってみろ!」
上品な食べ方を教えようとするパーラを遮ってかなめはそう叫んだ。そしてついでにネギまのネギを口に放り込む。
「串から直接……」
かなめにそう言われたものの麗子は串を手に持ったまま戸惑っていた。
「田安中佐。そんな食べ方したら喉を突きますよ」
レバーをそのまま口に突っ込もうとする麗子にカウラが思わずそう言った。
「見てろ麗子。こう食うんだ」
かなめはそう言うと器用に焼鳥を食べる。
「ずいぶんとまた……豪快ですわね……ちょっと、この肉苦いですわよ」
麗子はようやく一切れ食べ終えるとそう口にした。
「レバーは苦いもんだ。それが癖になるんだ」
戸惑う麗子をかなめが鼻で笑う。
「甲武の庶民もこうやって焼鳥を食べるんですか?」
誠は鶏もも串を平らげた鳥居にそう尋ねた。
「まあ……そうですね。軍に入ってからは何度か同僚と行きましたが東和と変わらないですよ。まあ肉が同じ形状しかない人造肉の焼鳥は食べるのが簡単ですけど、東和の天然の肉の形は色々あって最初は苦労しました」
鳥居はそう言って誠に微笑みかけてくる。
「同じ日本語文化圏だもんね……まあ日常会話には日本語が使われてるけど遼帝国はちょっと違うけど……でも、味付けとかは?」
アメリアは笑顔で鳥居に尋ねた。
「店によってまちまちなのは東和と同じですよ。自分はここの味付け好きですよ」
鳥居は満足げにそう言うとネギまを慣れた調子で平らげた。
「そりゃあ良かった……食え、食え」
かなめはまるで主気取りでそう言った。
「じゃあごゆっくり」
春子とお蔦はそう言って麗子を肴に盛り上がっている一同を二階において出ていった。




