第126話　甲武名物『人造肉』

「それにアタシに目を付けて通って来るスケベ客を追い返したりするんだよ。そんなののあしらい方はアタシは百戦錬磨の女郎だよ。あんな客は有り金全部吸い取ってやろうってのに……それを邪魔してるよね、かなめ姫様は」

　注文の焼鳥を手にして二階に上がって来たお蔦は焼鳥を配りながらそう言った。

「アタシの注文してるラムでチャラだって女将も言ってんだ！」

　ボンジリを麗子の前に置いているお蔦をかなめが怒鳴りつけた。かなめをいじるだけいじってお蔦はさっと階下へと消えた。

「鳥居曹長は意外と来慣れてるんだな。顔を見りゃわかる。オメエは麗子の馬鹿と違って司法局の連中とはうまくやってるだろ？違うか？」

　カウラは春子が運んで来たビールのジョッキを配りながらそう言った。

「まあ、麗子様はいつもご自宅までハイヤーで通われるので帰りは仲間とよく焼鳥屋とか行きますよ。はい、甲武でも焼鳥は結構人気ですから……軍の予科にいたときはよく食べました……まあ東和と違って鶏肉は高価なので人造肉ばかり頼んでましたが」

　鳥居はそう言うとカウラからジョッキを受取る。

「人造肉ねえ……私は食べたことが無いわよ」

　アメリアは珍しそうに鳥居の顔を見つめていた。

「あれはあれで良いもんだぞ。うちの居候のご相伴にあずかるたびに食わされた。アイツ等は日常的にアレを食ってる。いわゆる甲武の国民食だな」

　麗子達を不思議な生き物を見るような視線で眺めていたパーラの言葉にかなめがそう答えた。

「僕も人造肉は食べたことが無いですね」

　誠はとりあえず話題に合わせてそう言った。

「そんなはずはないぞ。宇宙軍のレーションは確か人造肉が使われていたはずだ」

　そんな誠にカウラは鋭い口調でそうツッコミを入れる。

「ああ、あれが人造肉ですか……普通のソーセージだと思ってました……確かにあんまりおいしくなかったですね」

　誠の言葉にカウラがそう言い添えた。

「クバルカ中佐に言わせると食えたもんじゃねえらしいなアレは。この前だって賞味期限の来たレーションを食べてたら『アタシの前に人造モノを出すんじゃねー』とか言ってたわよ……あの人は食通だから。あの人、宇宙で『ふさ』の冷凍庫の魚が切れたら何を食べるつもりなのかしら？『アタシは不死人だ！死んでもレーションなんか食わねー』とか言って絶食しそうな雰囲気だけど」

　アメリアは春子からビールのジョッキを受取りながらそうぼやいた。

「確かに言いそうですね、クバルカ中佐は」

　パーラの何気ない一言に誠もうなづいた。春子に続き小夏も現れてビールや烏龍茶をテーブルに並べていく。

　宴会の雰囲気はようやく形になり始めた。