第125話 『将軍様』初めて焼鳥に出会う
「そう言えば麗子……何が食いたい……ってなんも知らねえか、オメエは。出されたものを黙って食うことしか出来ねえお姫様だもんな、オメエは」
そう言うかなめの顔には笑顔が浮かんでいた。かなめの表情にはには明らかに自分の優位を誇っている笑顔があった。
「気になる言い方ですわね。焼鳥屋は初めてなので……何がありますの?妻ならば夫の気に入りそうなものの一つくらい言えても当然じゃありませんこと?」
麗子は不思議そうな顔をしてそう尋ねた。
「オメエは何でも食うからな……オメエには味覚ってもんがねえのか?アタシは貧乏舌を自認してるが、アタシでも不味い店に連れて行った時も喜んで食ってやがった。とりあえず焼鳥盛り合わせなんてどうだ?」
かなめは笑いながら麗子を見下すような口調でそう言った。
「盛り合わせねえ……なんか初心者向けみたいですわね……もう少し上級者向けのものは有りませんの?」
不服そうにそう言う麗子にかなめは笑ってみせる。誠から見ても麗子は盛り合わせの意味を理解しているようには見えなかった。
「焼鳥に初心者も何もねえだろ?とりあえず人数分頼むか?」
「私は豚串追加で……神前も何か追加するだろ?」
おとなしかったカウラは笑顔でそう言って誠の顔を見た。
「僕も豚串と……パーラさんは砂肝とボンジリ追加ですよね」
誠はそう言って麗子に笑いかけた。
「砂肝?ボンジリ?」
麗子は理解できない言葉に首をひねる。
「田安中佐、鶏肉の部位のことですよ……鶏は部分によって味とか食感とかが違うんで……じゃあ、自分は皮をお願いします」
鳥居はそう言って二階に上がってきた女将の家村春子に注文した。
「皆さんいつもごひいきにしていただいてまして……」
察しの良い春子は麗子がそれなりに丁寧に扱うべき客と分かったのかいつも以上ににこやかに周りを見回した。
「いえいえこちらこそかなめさんがいつもご迷惑をおかけしてるみたいで。かなめさんは時々無茶をなさるので夫である私としても時々手を焼きますもの。本当に困ったものですわ」
春子に麗子がそう笑いかける。麗子もかなめの無茶には多少心当たりがあるようでそう言ってタバコをくゆらせるかなめに視線を投げた。
「迷惑だなんてそんな……西園寺さんの『レモンハート』のおかげでうちはいつも大黒字ですもの。甲武ほどじゃないけど東和でも地球のお酒は結構高いのよ。それをケース単位で頼んでくれるんですもの……うちとしては大助かり」
春子はいつものように柔らかい笑みで麗子を見つめた。
「そうだ、迷惑なんてかけてねえぞ。助けてやってんだ。うちらの居場所を」
笑顔の春子にかなめがそうつぶやく。
「でも……時々店のモノを壊しますよね。この前もテーブル一つ酔った勢いで叩き折ったじゃないですか」
誠はこれまでも怒りに任せてジョッキの取っ手をへし折ったりするかなめの暴力は目撃していたのでそう言ってみた。




