第119話 いつもこき使われる常識人
「遅かったじゃないの。どうせ島田君に変なこと吹き込まれてたんでしょ?彼にも本当に困ったものだわ」
そこにはカウラの『スカイラインGTR』とパーラの黄色い『ランサーエボリューション』が停まっていた。その黄色い車の前で冬装備バリバリの姿のパーラが退屈そうに無駄にエンジンの空ぶかしをしているカウラの報を気にしながらそう言った。
「いつもすみませんね……なんだか変なことに巻き込んでしまって」
誠は思った。この恥ずかしいモノ扱いされる自分の状況を救える女性はパーラしかいないと。
「神前君気にしないでよ。アメリアの部隊に配属になった時からこうなる運命だったんだから。これも運命……半分諦めてるわ」
麗子と鳥居の何をしゃべっているのか理解不能なやり取りを無視して水色のショートカットの髪をなびかせてパーラが力ない笑みを浮かべて見せた。
「どちらに乗ればよろしくて?当然、夫と妻は隣り合って……でもどちらも貧相な車ですわね。かなめさん、まったく妻として恥ずかしくないのかしら」
制服姿の麗子が戸惑ったような表情でスタジアムジャンパーを着たかなめに声をかける。
「オメエと鳥居はパーラの『ランエボ』だ……アタシはカウラの車で行く。オメエに付き合うと頭がおかしくなる。オメエと付き合うのは競馬とその後のホテルだけ。それ以外は一瞬たりとも一緒に居たくねえんだ」
かなめはきっぱりと麗子に向けてそう言い切った。
「それはおかしな話ですわね。夫婦たるもの片時も……」
そう言ってパーラの車へと手を引こうとする麗子の手をかなめは冷たく振りほどいた。
「うっせー黙れ!今ここでいつものベッドの中みてえに散々泣かしてやろうか!」
かなめが彼女のいつものいら立ちの指数がマックスに達した時に見せるホルスターに手を伸ばす姿を見ると、さすがに付き合いが長いらしく麗子は諦めたようにパーラの車に乗り込んだ。
「そうか、じゃあ行くぞ」
かなめはそう言ってカウラの『スカイラインGTR』の後部座席に滑り込んだ。誠もまたそのまま後部座席に座る。
「パーラさん達と田安中佐って……会話とか有るんですかね?」
誠は心配そうに運転席に座るカウラに声をかけた。
「話すことがあれば話すだろ。なければ静かで良いじゃないか。少なくとも私にはあの二人の会話に入り込む自信はない」
カウラはそう言うと車を出す。




