第115話 いつも付き合わされる可哀そうな常識人
「じゃあ、行くぞ!麗子、着いて来い。さっきの神前の所有権についてはオメエとじっくり話し合う必要があるみてえだからな」
機動部隊の詰め所で訓練メニューの確認を始めたランを置いて誠達は部屋を後にした。
「かなめさん!なんですか、その言い草は!先ほど言ったとおり、誠様は妻であるかなめさんと私との共有財産ということで話が着いたではありませんか!それが尊敬すべき夫に対する態度ですか!もっとしおらしい妻らしく夫を立てるような言い方は出来ないのですの?まったく気が利かない妻ですわね」
麗子はかなめの態度に不満そうだが誠達はむしろいつも二人っきりの時にかなめと麗子がどんな会話をしているのかを想像して頭をひねらせていた。
「田安中佐。高梨参事との監査はどうだったんだ?高梨参事のことだ。万に一つも抜かりはないだろうが」
そう言うとカウラは凝った肩を回しながら誠に目をやる。
「そう言えばアメリアさんは何しに行ったんでしょうね……まあ、あの人の事だからろくなことじゃないとは思うんですが」
誠の言葉にかなめは仕方ないというようにため息をついた。麗子の面倒さと気まぐれ、そしてその結果さらに自分の立場が弱くなっている事実に気付いて誠も少し閉口していた。
「アメリアなんかほっとけ。それより麗子、月島屋の話はいつもしてるから知ってるな?……いつか連れてけってうるさかったんだ……カウラ、車を用意しろ」
かなめは誠の話をしても一向に拉致があがないことに気付いてカウラにそう言った。
「私の車4は人しか乗れないぞ……パーラに頼むか?」
カウラはそう言って苦笑いを浮かべた。
「ラビロフ大尉も大変ですね……こういう時はいつも狩りだされて」
誠はお人よしのパーラに同情せざるを得なかった。
「まあ、アメリアもどうせ行くのは月島屋でカウラの車が四人乗りなのは知ってるからパーラには声をかけてるだろ?どうせアイツの行き先は運航部のこの前の映画に使ったゴミの山に決まってるんだ。あそこから変なアイテムを持ち出して麗子に押し付ける気だ。間違いねえ」
かなめはそう言って苦笑いを浮かべた。
「でもそうするとグリファンと島田もついてくることになるな。ああ、島田は『武悪』の整備があるからサラが嫌がってついてくることはないか。しかし、田安中佐は本来であれば甲武の右大臣として国賓待遇で東和を訪問するような身分の人間だ。そんな人間にサラのような性能が低い『ラスト・バタリオン』や、犯罪と常識の区別のつかない島田を一緒に飲みに連れて行くわけにはいかないな……まあ、その辺はアメリアも心得ているだろう」
気乗りしない調子でカウラはそう言った。
「まあ、麗子の奴に別の意味で馬鹿なサラや頭が悪いという意味での馬鹿の典型の島田を会わせるというのも面白かったんだがな。コイツは庶民を知らねえ。甲武にはフウテンや愚連隊はいるが『ヤンキー』はいねえ。その生態を見た麗子がどんな反応をするか見てみたいような気がしないでもねえがな」
かなめはいかにも面白そうにそう言った。
「『東和のヤンキー』の生態なんて見せてどうする。それに『ヤンキー』は東和の庶民を代表する存在ではない。そんなものが知りたいのか?」
ニヤニヤ笑っているかなめにカウラは心配そうにそうつぶやいた。




