第114話 部屋の主の帰還と追い出される将軍達
にらみ合うカウラと麗子。それを冷ややかな目で見るかなめ。そしてただ話題の明後日の方向に突き進む様を面白がるアメリアとアン。
誠はひたすらなく事しか出来なかった。
「おーい、オメー等。いーかげんアタシの存在に気付け」
突然、カウラの背後にちっちゃい人物の気配を感じて一同はそちらに目を向けた。
そこにはこの司法局実働部隊機動部隊長のクバルカ・ラン中佐のちっちゃなすがたがあった。
「これはこれは『汗血馬の騎手』として知られたクバルカ中佐。ごきげんよう」
これまでの剣幕はどこへやら、麗子は満面の笑みで彼女が『かわいい』認定したランに向って歩み寄りそのまま頭をなでようとした。
「おい、田安。人を何だと思ってんだ!頭をなでるんじゃねえ!」
そう言うとランは自分の頭をなでようと伸ばされた麗子の手を払いのけた。
「ですが、クバルカ中佐。その可愛さは罪ですわよ。皆さんに公平に分けてあげないと。ああ、かなめさん。あなたも夫が愛でるかわいい幼女を一緒に鑑賞しましょう」
そう言うと麗子はかなめの方を向いた。いつもランには絞られてばかりのかなめはこの機を逃すまいと早足でランの所にやってくる。
「本当にかわいいでちゅねー……頭をなでなでしてあげまちゅよー」
そう言うとかなめまでもがランの頭をなでようと手を伸ばした。
「まったく!うっとーしーんだよ!テメー等は!監査が終わったから仕事の続きをしようと部屋に戻ってくればこの様だ。クラウゼ!オメーがこの中じゃ一番階級が高いんだ!なんとかしろ!」
麗子とかなめの頭なでなで攻撃にうんざりしたランは誠の隣で立ち尽くして状況を楽しんでいるアメリアに向けてそう言った。
「私がですか?でも、特別監査官をお連れするような場所はもう無いですよ。あるなら教えてくださいよ」
アメリアは自分が責任者にはなりたくないというように逃げるような発言をした。
「行く場所がねーのか。じゃあ、監査は終了だな。オメー等帰れ。つーか、邪魔だ。とっとと出ていけ」
ランは自分に伸ばされる麗子とかなめの手を振りほどくとそのまま自分の大きな機動部隊長席に足を向けた。
「じゃあ、姐御。アタシ等は早退して良いってことですか?」
かなめはいかにも嬉しそうにランに向けてそう言った。
「早退じゃねー。特別監査官の監査終了をねぎらうための酒宴を設けるのが当然の話だ。どうせ行くのは月島屋だろ?あそこは昼飲みもやってて今の時間に行ってもやってるはずだ。とっとと帰れ」
ランはそう言って自分の端末を起動した。
「そういうことね。じゃあ、カウラちゃんも誠ちゃんも端末の電源落して!飲みに行くわよ!それとちょっと待っててね!将軍様にぴったりのアイテムが部屋にあるから取ってくる!」
公然と上官から職場放棄の許可をもらってアメリアは元気になっていた。そしてそのままいの一番に部屋を飛び出していった。
「いいのかな……こんなので」
誠は機動部隊の詰め所を出て行くかなめ達の背中を見ながら自分の立場の弱さと今日一日の滅茶苦茶な出来事を思い出してため息をついていた。




