第113話 こうして誠の人権は剥奪された
「ちょっと二人とも!誠ちゃんはおもちゃじゃないのよ!それに何よその理屈?確かに田安家は甲武でも唯一『一夫多妻』が認められている家だけど、その夫がなんで女の麗子さんなの?じゃあ、誠ちゃんの立場は何?子種を作る機械?」
アメリアは無茶な理屈を振り回す麗子に呆れたようにそう言って抗議した。
「よくお分かりですわね。私の言いたかったことをすべて言い当てておりますわ。そうです、誠様は私とかなめさんに子を作る為の機械です。それ以上でもそれ以下でもありませんわ。夫婦は夫は私、妻はかなめさん。そしてその二人に子をなすのがこの男の役目」
麗子の言葉に誰もが言葉を失った。
『僕の立場って……どんどん悪くなってるな……パイロット養成課程では『もんじゃ焼き製造マシン』。隊に入ってすぐに島田先輩の舎弟。夏合宿ではいつの間にか猫以下の存在。そして知らないうちにリンさんに弄ばれて女性用大人のおもちゃにまで落ちた。それが今度は子を作るための機械か……僕の存在っていったい何なんだろう?』
誠の頬を一筋の涙が流れた。
「田安中佐。あなたは庶民の気持ちを分かるということはあるのですか?庶民は人間です。機械ではありません。また、神前も人間です。機械ではありません。戦闘用人造人間として作られた私でさえこの東和では人間として扱われている。それをあなたは否定している。それはこの国で生きていくには危険すぎる思想だ」
ここで敢然と立ちあがったのはそれまでデスクの端末のパチンコにしか興味が無いように見えたカウラだった。彼女は真剣な表情で麗子をにらみつけた。
「なんですの?人工人間が神君家康公の血を引く私に意見すると?これはこれは……かなめさんからもおっしゃってあげなさいな。私たち夫婦の間にはいることが出来るのは大変光栄なことで、この男にもそれなりの待遇を用意して差し上げると」
麗子は自分をにらみつけて来るカウラに向けて挑発的な笑みを浮かべてそう言い放った。
「私を馬鹿にするのは構わない。人工人間扱いも結構。しかし、神前をモノ扱いするその態度を私は問題だと言っているんだ!」
感情をあらわにすることが少ないカウラが怒りをあらわにして麗子をにらみ返した。
「カウラさん、ありがとうございます。僕も田安中佐と西園寺さんのモノ扱いは嫌です」
誠も自分を庇ってくれるカウラに加勢すべくそうはっきりと言った。
「なんですの?下々の考えることはまったく良く分かりませんわ?かなめさん、妻ならば夫が因縁をつけられている時はなんとかするのが当然では無くて?」
カウラの迫力に負けた麗子がかなめに目をやった。
「なあに、単なる『ラスト・バタリオン』の『従属本能』が暴走しているだけだ。この緑の髪の女は神前を自分専用のおもちゃにしたいだけなんだ。それはそれとして、オメエもいい加減諦めろ。神前はアタシ個人の所有物だ。他の誰にも使わせねえ」
かなめは麗子に向けて冷たくそう言い放った。
『結局は僕はこの隊の女子の誰かの『所有物』になるんだな……僕の人権は何時無くなったんだろう?』
誠はカウラと麗子とかなめのやり取りをまるで他人事のように見ているアメリアとアンを見ながら再び涙を流した。




