第112話 それでもめげない将軍様の滅茶苦茶な理屈
「そうですわね……でも、ということはそのお方は『傷物』の女でも構わない男だということになりますわよね?」
顔を上げた麗子はかなめに向けてそう言った。
「なんだよ、その面は?アタシに文句があるのか?アタシは四大公家筆頭だ。オメエは四大公家第三位。いくら征夷大将軍とは言えあの位は名誉職だ。アタシに逆らえると思ってんのか?」
かなめはじっと誠の顔を見つめている麗子に怯えたような調子で脅しの言葉をかけた。
「いえ、その男は珍しく私が嫌悪感を感じない男なのです。そうですね……ではこうしましょう。私も誠様と『婚約』します」
『は?』
この場に居る全員が麗子の意味不明の発言に呆然とした。
「あのなあ、麗子。婚約ってのは普通男と女が一人づつでするものだ。それがなんでオメエまで神前と婚約しなきゃなんねえんだ?おかしくないか?自分が言ってることの意味が分かってるのか?」
かなめはあきれ果てたというように自分達に真っすぐ歩み寄ってくる麗子に向けてそう言った。
「かなめさんと私が夫婦である以上、かなめさんが『婚約』すれば当然夫である私もその男と『婚約』したことになります。夫婦はお互いのモノを分け合って生きていくもの。当然、その男のこともかなめさんと私で分け合うのが夫婦としての当然の在り方。皆様方もそう思われませんか?」
相変わらず麗子の理屈は根底から破綻しているものだった。
『誰が思うか!』
アメリアをはじめ麗子の意味不明の思考回路にツッコミを入れざるを得なかった。
「おい、麗子。オメエの頭ん中はどうなってるんだ?コイツはアタシの『婚約者』でアタシの私有物なんだ。なんでオメエまでそこに入ってこようとするんだよ」
誠の手を取りその顔を見つめる麗子を見ながらかなめは焦りを感じていた。
そして同じく、美女ではあるものの言ってることが意味不明な麗子に見つめられて誠は自分がどういう状況に置かれているのか理解することが出来なかった。
「あのー、西園寺さんの言ってることも無茶苦茶ですけど、田安中佐の言葉はそれ以上に意味不明なんですけど」
誠にはそう言うことが精いっぱいだった。
「誠様はつまりは遼帝国の帝室の血を引くということ。つまり田安の血に穢れた血が混じるという意味にはなりませんわね。ですので誠様は私の婚約者としてかなめさんとの共有財産ということにいたしましょう。それで夫婦円満が図れるというものです。我ながらなかなかいい思い付きだと思いませんか?皆さん」
誠は自分が完全に麗子とかなめの所有権争いの大将になるような『モノ』に成り下がった自分を認識していた。
『思わねえよ!』
その場にいる全員がまたもや展開された麗子の珍妙な発想に声を合わせてツッコミを入れた。




