第111話 馬鹿将軍振られる
「みなさん内緒話ばかりしてどうされましたの?妻なら夫を率先して迎える。それが常識ですわよ!」
そしてドアが堂々と開かれ麗子が颯爽と現れた。
「おい、麗子。いつもいきなりだな。それよりこれからオメエはどうするんだ?終業時間まで時間があるぞ」
かなめは明らかに不機嫌になって麗子に向けてそう言った。
「あら?そんなこと妻であり、この隊の案内人であるかなめさんがお決めになればよろしいんでは無くて?夫にその程度の助言が出来なくては妻失格ですわよ」
その麗子の言葉にかなめはニヤリと笑った。
「おい、麗子。その夫婦の話なんだが、アタシには『婚約者』が居るんだ。オメエの脳内夫婦ごっこは終わりだ。分かったか?」
かなめは胸を張って立ち上がるとそのままつかつかと誠の隣に立った。
「かなめさん、何をおっしゃっているのやら……あれほど愛を交わしている私達の間に誰かが入り込むことなど有り得ませんわ!まあ、私が誠様の心をゲットしてしまうという状況は考えられますけど……ガサツなかなめさんに『婚約者』が出来るなんてありえませんわ!それに私がかなめさんの夫です!そんなことは許しません!」
明らかに動揺した様子が麗子の目には見て取れた。
「こいつ、神前誠。オメエも『神前』の名字が遼帝国の帝室の出の名字だってことくらいは知ってるだろ?つまりこいつもオメエやアタシに流れる神君家康公並みに気高い血筋をもった家柄の出と言うわけだ。そのこいつがアタシの『婚約者』だ。どうだ、理解できたか?オメエ、コイツに気があるのか?それじゃあなおの事オメエに『諦める』ということを学習させてやったアタシを褒めるべきだねえ……おい、褒めろ、もっと褒めろ」
かなめは物わかりの悪い子供に説明するようにゆっくりと麗子に向けてそう言った。かなめに強引に椅子から立ち上がらされた誠は頭を掻きながら麗子の不思議な生き物を見るような視線にさらされることになった。
「かなめさん。私、かなめさんの言っている意味が良く分かりませんのよ。私とかなめさんは夫婦。夫婦はもうすでに結婚している。つまり今更婚約する必要はない。そこに婚約者として誠様が居る……一体どういうことかしら?」
麗子はかなめの言うことを全く理解していなかった。
「だから!アタシはオメエと夫婦になった覚えはねえ!オメエとアタシはただの遊びの関係!オメエはアタシに遊ばれてただけ!アタシはこいつと結婚するの!だからオメエはアタシに振られたんだ!そのくらいのこと理解しろ!」
かなめは物わかりの悪い麗子に向けて冷酷にそう言い放った。
しばらく時が止まる。
そして、麗子が膝からがっくりと崩れ落ちた。
「私とは『遊び』?あれほど激しい夜を過ごしながらあれが遊びだったとは……私はかなめさんに傷物にされてしまっていたのですわね」
麗子は呆然自失とした表情で床を見つめながらそう言った。
「まあ、そう言うこった。アタシもオメエに『傷物』にされたわけだが、コイツはそれでも良いと言っている。いいだろ、オメエは一生独身。アタシは近々結婚。オメエは初戦負け組の馬鹿将軍なんだ」
かなめは勝ち誇ったようにうなだれる麗子に止めを刺した。




