第110話 中途半端な監査終了報告
「みなさん!お待たせしましたわね!ああ、数字を見るというのは何時でも疲れるものですわ!でもそれだけに仕事のし甲斐があるというもの。かなめさんも数字に強い夫を持って幸せでしょう!そして誠様、私は数字に強い女ですのよ。その点は良くお分かりになっていただかないと困りますわね」
そこに現れたのは馬鹿な将軍麗子のお付きのものである鳥居だった。
一同は彼女の早すぎる登場に唖然とする。
「なんだ?まだ三時間たってねえぞ。やけに早えじゃねえか。どうせ訳が分からなくなってあの人の良い高梨部長に匙を投げられたんだろ?まあオメエの事だ。そんなもんだろ」
かなめは不機嫌そうにそう言うと鳥居をにらみつけた。
「藤太姫様……そんな目で見ないでください。とりあえず、これで司法局実働部隊に対する特別監査は一通り終わりました。今日は一日有難うございました」
カメラを抱えた鳥居はそのまま素直に頭を下げる。ぼさぼさ頭の髪の毛がぴょこんと揺れた。
「あれでしょ?どうせあの馬鹿将軍に経理の難しい書類なんて理解できるわけないんだから高梨部長と菰田君で口先三寸で丸め込むのにこれだけ時間がかかったってことよ。それにしても二時間かかったんだから……カウラちゃん、今何時?」
アメリアは半分呆れてそう言った。
「ああ、まだ三時だな。しかし、これからどうするんだ?射撃場でも行くか?」
カウラは相変わらず画面のパチンコ台から目を離さずにそう言った。
「バーカ。あんな頭の悪い人間にアタシの聖地である射撃場に足を踏み入れられてたまるか!それより、『うちではこういう訓練をしています』と言って神前にグラウンドを案内させろ。そしてそのまま終業時間までアイツを『いつもしていることですので』と言って走らせる。神前が付き合って走ればアイツは馬鹿だから素直に走る。そのまま疲れてすぐに帰る。つまり夜のお付き合いも無し!丸く収まるんだ。神前、ジャージに着替えてこい」
かなめはまた無茶な命令を誠にしてきた。
「嫌ですよ。あと二時間走るんですか?それにあの人のジャージはどうするんです?あの動くとすぐ汗をかく司法局の勤務服で走れとでもいうんですか?」
誠は苦笑いを浮かべながらかなめにそう反撃した。
「そんなもん、アイツの身長からしてカウラの奴を貸せば……ああ、アイツ胸がでけえからカウラの胸無しのジャージは着れないな」
かなめはカウラの胸を見ながら勝ち誇ったように自分の巨乳を見せびらかすような格好をしてそう言った。
「余計なお世話だ。そんな事で人間の価値が決まるものではない」
かなめの無茶苦茶にカウラは不機嫌そうにツッコミを入れる。
「身長的にはパーラの奴を着れば良いんじゃないの?誠ちゃん。シミュレータの時みたいに手加減せずに全力で走っちゃっていいわよ。あの馬鹿姫はプライド高そうだからどこまでもついてくるわ。たぶん三十分と持たずにヘロヘロになる。そこでその様子を私達はのんびりと観察してるだけ。楽が出来て良いわね」
アメリアは一緒に走らされる誠の事も考えずに無責任にそう言った。
「アメリアさんまで滅茶苦茶言って!でもどうするんですか?倉庫でも……いや、あそこだけは見られるとヤバいですよね。また島田先輩、地球の大富豪に密輸する目的で車をスクラッチしてるとか言ってましたから。今度はなんでしたっけ?」
誠は話題を車に詳しいカウラに振った。
「ああ、『ポルシェ911』とか言ってたぞ。意外に普通の選択だと私は思った。さすがに無駄遣いが過ぎたと相手のお金持ちも思ったんだろうな。島田は張り切っているがたぶんそれほど稼げるような車じゃない。地球にもあれのオリジナルは相当数残っているはずだからな」
カウラは車知識を披露して満足げな笑みを浮かべるとそのまま画面のパチンコに視線を戻した。




