第103話 かなめの名案……結果はすなわち誠の死
「ああ、このままじゃ本当にアタシはあの馬鹿の妻にならなきゃならねえ。そしてあの馬鹿の子供を最低10人は産まなきゃならねえ……神前。そんなアタシを可哀そうだとか思わないのか?オメエには血も涙もないのか?アタシはあの馬鹿が怖いんじゃねえ、あの馬鹿の後ろにいるあの馬鹿の為なら喜んで切腹する脳内が理解不能な集団である『徳川譜代』の連中が嫌なんだ。神前、オメエも目の前でいきなり切腹されてみろ。良い気持ちしねえだろ?実際アタシはこれまで二回もそんな目に合ってるんだ。そんなアタシを可哀そうだとは思わねえのか?ひでえ奴だな」
銃を机に置くとかなめはそう言って持ち前のタレ目で誠に泣き落としをかけてくる。
「でも付き合ってるのは西園寺さんでしょ?それに嫌なら断れば良いじゃないですか……まあ、あの人は馬鹿だからその言葉の意味を理解できるかどうかは分かりませんけど僕の責任じゃ無いんですよ。僕より年上なんだから少しは工夫してください。それに『徳川譜代』のことは田安中佐の問題であって西園寺さんは何も悪くないですよ。確かにいきなり田安中佐と結婚してくださいと叫んで切腹されたらいやなのは確かですけど」
誠は『徳川譜代』の江戸時代で止まっている思考の持主に粘着されているかなめの境遇には同情したが、東和の一般市民である自分にはどうすることもできないのでそう言うしかなかった。
「ああ、神前は冷たい男だな!こんなに人が困ってるのにまったく相談に乗ってくれねえ!一日彼氏ぐらいやってくれても……」
かなめは諦めたように手を伸ばした後、何か思いついたように誠の席に向けて身を乗り出してきた。
「おい、神前」
再び真剣な表情を浮かべてかなめはそう言った。
「なんですか?面倒ごとは御免ですよ。僕も目の前でいきなり人に切腹されるのを見るのが好きな質じゃ無いんで」
すげなく誠はそう返す。
「オメエはアタシと寝たことが有る事にしろ。そして今でも関係があるとアイツの前で言い張れ。アイツは貞操観念の塊だ。妻の不貞を許すとは思えねえ。そこでアイツが勝手に結婚もしていないのに『離縁だ!』と騒ぎ立てればこっちのもんだ。アイツとの縁も切れる。そしてそんな不貞妻を『徳川譜代』の連中が許すわけがねえからコイツ等から追い回される生活ともおさらばだ。これはアタシながら良い考えだな……」
またもやかなめは自己中心的な発言を繰り広げた。
「なんでそんなことを僕がしなきゃならないんですか?それにあの人をあがめてる『徳川譜代』の人達。たぶんそれが分かれば今度は僕の命を狙ってきますよ。ただ標的が西園寺さんから僕に変わるだけの話なんじゃないですか?それって。西園寺さんは僕の護衛の為に寮に居るんでしょ?なんでそんな僕をより危険にするようなことを考え付くんですか?そんな事は御免です!」
誠は狂信的な『征夷大将軍』を支える『サムライ』達に命を狙われる恐怖からそう言っていた。




