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その変態の名はリズ・ウォーカー

バックグラウンドサービス1


最近しつこい客がいる。


私がここ喫茶店ゲストズでバイトを始めて四か月。

最初はさびれていたこの店も今は活気を取り戻していた。昼はランチを食べるビジネスマンで賑わい、夜はちょっと洒落たバーとして大人にひと時の安らぎを与える。

実は朝も短時間であるが営業していて朝食を出している。


その客は朝と夜の人の少ない時間を狙ってやってくるのだ。

この私と話すために。


「おはようサキ、今日も素晴らしくかわいらしいわね」

「いらっしゃいませ、ウォーカー様」


いつの間にかこの人は私の名前を呼び捨てするようになっていた。

ちなみに私が苗字+さま付で呼ぶのは見えない壁を作るためだ。常連さんで名前を知っている人はさん付けで呼んでいる。


「つれないわね、リズと呼んでって言っているのに」

「結構です、本日はどちらになさいますか」

朝のメニューは和食のAセットと洋食のBセットしかない。

「いつも通りサキの女体盛りでお願い」

「そんなメニューありません。・・・Bセットでよろしいですね」

 リズが来てからスルースキルが格段に上がった。もう女体盛りだろうとパンツのしゃぶしゃぶだろうと注文されても私は動じない。


リズがしつこく通ってくるようになって二か月。

最初はちらちら見てくるだけだったが今では言葉でセクハラしてくるまでになった。悪い人ではなさそうなのだが、・・・とても残念な人だ。

リズが初めてこの店にやってきたときは心臓が止まるかと思った。

朝の陽ざしを浴び輝くプラチナブロンドの長髪、白い肌にすらりとした体系、そして澄んだ青い瞳。聞いたところによるとニホン人とロシア人とのハーフだとか。

リズの姿は何度見ても目を奪われる。

今日もいつの間にかリズを見てぼーっとしていたらしい。

「そんなに見つめられると興奮するわ」

「やめてください」

冷ややかな目で睨むがリズは我関せずとでもいうように優雅にコーヒーを飲む。

「サキの今日の予定は?」

「朝の勤務が終わったら今日はお休みです」

「じゃこのままアフターに」

「ここはそういうお店じゃありません」

前に同伴しましょうと言われたこともある。まったくこの店をなんだと思っているのか。三万円でどう?と聞かれる日も近いかもしれない。

「ふふ、照れている顔もかわいいわ。ごちそう様」

「ありがとうございました」

カウンターにお金を置いて行って颯爽と出ていく姿はなんというか、決まりすぎだ。

「黙っていれば綺麗でかっこいいのに・・・」

口を開けば変態ドスケベー大魔神だ。しかも表情は下品になることなく美しい彫刻のようなままなのだからさらにたちが悪い。

朝のコーヒーを片手に窓の外を眺める姿とか、夜にカクテル片手に物思いにふける姿とかこの世の物とは思えない美を感じさせる。そう、黙ってさえいれば。


カウンターを片付けてマスターに話しかける。

「片付け終わりましたけど何かありますか」

「ああ、ありがとうサキちゃん。もういいわよ、お疲れ様」

「お疲れ様でした」

私服に着替えて従業員用出口から出るとそこにはなぜかリズがいた。

「・・・なんでいるんですか」

今までこうして待たれていたことはない。

「サキをデートに誘おうと思って」

「お断りします」

きっぱりとした口調で突き放すと、目の前に二枚のチケットが出される。

「こ、これは・・・」

「あなたの事は調査済みよ」

にっこりと笑うリズの顔はドキドキするほど美しかった。


リズは妙に私の事を知っている。趣味とか住んでいる大体の場所とか好きな食べ物、嫌いな食べ物まで。

私は仕事と家をころころ変えるため、長い付き合いの友達がいない。よって私の事を詳しく知る人は皆無なはずなのだが。

逆に私が知っているリズの事は少ない。

いつもお店にスーツでやってきて、びっくりするほど美人でスタイルがよく、態度も紳士的だが残念なことに変態さん。

ああ、あと肉や魚より野菜が好きなことくらいだ。


やって来たのは映画館。リズが持っていたのは映画のチケットだった。

実は今日までの公開作品で見てみたい映画があったのだ。

それをどうやってリズが知ったのかは謎なのだが。

「リズって私の事ストーキングとか、部屋に盗聴器仕掛けたりとかしてないよね」

「やっとリズって呼んでくれたわね」

「・・・勤務時間外なので」

嘘だ。無意識に呼んでしまったとか恥ずかしくて言えない。

「まぁ、私は何もしてないわよ」

リズの『私は』ってところがすごく気にかかるが、・・・まぁいいとしよう。

今はそれより映画だ。


「飲み物買ってくるわ、さぁあなたは座っていて」

「いえ、わたしも」

行きますよと言いかけるとリズにいいからいいからと席に押し込まれる。

しばらくして二人分の飲み物とポップコーンを抱えてリズが戻ってきた。

「サキはホワイトウォーターでよかったわね」

「ありがとうございます」

飲み物とポップコーンを渡される。

しかし私はホワイトウォーターが好きとかどうやって調べてきたんだか。謎は深まる一方だが不思議と嫌だったり怖かったりはしない。なんでだろうなーと考えていると映画が始まった。


映画は現代を舞台としたロボットアクションものだ。科学とオカルトが融合されて作られた導術という技術を使い巨大なロボットを動かし宇宙から来た未確認生命体と戦う。

実はこの導術というのは実際に研究されているらしい。仕組みはよく知らないがテレビで導術を使った燃料がいらないライターというのを見たことがある。実用化はまだされておらず、巨大ロボを動かすなんて夢を通り越してそれこそ映画の中のお話みたいだが。

物語は主人公の恋人が未確認生命体によってさらわれることから始まる。そして恋人は実は国王の娘でうんたらかんたら。導術ロボでどっかんどっかん。

最後に主人公が宇宙人により意思を持つようになったロボとキスして終わった。


暗かった映画館に光が戻った。

長時間座っていて固まった体をほぐすように大きく伸びをする。

さてこれからどうしようか。

隣を見るとリザはお腹が空いているのか、空になったポップコーンの入れ物を名残惜しそうに見ていた。

「あの、この後一緒にお昼とかどうですか。映画のお礼したいですし」

「もちろん、よろこんで」


入ったのは近くにあったファミリーレストラン。

コーヒー二つに私はハンバーグエビフライプレート、リズはシーザーサラダに冷やしトマトパスタを注文する。

「ありがとうございました。一人だとなかなか見に行きづらくて」

「いいのよ、私はサキと映画館デートを楽しみたかっただけだし」

「デートって」

「あら、嫌だったかしら」

そういわれてリズの青い瞳に見つめられ、思わず顔をそらしてしまった

己の敗北を悟る。

「ぃゃじゃないです・・・」

 そう答えるとリズは満足そうに微笑んだ。

「映画面白かった?」

「はい。特に主人公のエルがライバルとカエルの踊り食い対決をしているところが」

危機的な状況でありながら、相棒であるライバル(←名前)と喧嘩してしまったエル。それを見かねた同僚が二人を仲直りさせるべくカエルの早食い大会を主催した。お互いのことをよく知るからこそ負けられない戦い。手に汗握る展開だった。

「えっと、リズはどうでしたか」

「まぁまぁね。ご都合主義が多くて、特に導術のところとか」

「導術ですか」

 心なしかリズの表情に陰りが見える。

「まぁ、気にしないで。さっ、食べましょう」

タイミングを見計らったのかのように料理がやってきた。


「やっぱりゲストズの方がおいしいわね」

「お店でそんなこと言っちゃダメですよ」

 リズの辛辣なコメントを私はエビフライをもぐもぐしながら注意する。

「リズは普段何やっているんですか?その、仕事とか」

「ん?私に少しは興味持ってくれたのかしら」

なんか違うニュアンスが含まれているような気がするがその通りだ。

「まぁそんな感じです」

「嬉しいわ。私はね警備会社に勤めているの」

「警備会社ですか、なんか意外です」

国家公務員で官庁とかでバリバリやってる感じ。よくわかんないけど。

「まぁねー。でもこれでも結構すごいのよ」

 えっへん、とでもいうように胸を張る。・・・かわいい。

「どんなことをしているんですか」

「んー、それは秘密かな」

仕事上の守秘義務というやつだろうか。

「すみません」

「いいのよ、気にしないで。でも擬音語であらわすと」

「表すと?」

「シューガガガが、ガきん、どんどんどん、ビりびりびり。みたいな感じかしら」

「なんですか、それ」

 真面目な顔で擬音語を連発するリズに吹き出してしまう。

それから話は変わってお互いの趣味の話。

「サキは映画とか結構見るの?」

「いえ、あんまり。テレビとかで紹介されていてみたいなーと思ったりするんですけど、なかなか一人では行きづらいもので」

「友達がいないのね」

「返すお言葉もありません」

そういって大げさに肩を落としたらリズに笑われた。

「リズの趣味は?」

「かわいい女の子とお話しすることかしら」

そんなしれっとした顔で言われたら突っ込みようがない。

私にかまってくるのは趣味の一環なのだろうか。残念ながら私はかわいい系の女の子ではないのだが。

「リズはなんで私にしつこく絡んでくるんですか」

「嫌?」

嫌なわけじゃない、いやむしろ嬉しいから困っているのだと思う。自分にはリズに好かれる理由などないと思うから。

素直に答えるのは癪なのでどう返そうかと思い黙る。

「ちょっと茶色がかっていてまっすぐなショートヘヤー」

「え?」

 黙っているとリズが私の目を見つめて話し出す。

「強い意志を感じさせる黒い瞳。引き締まった口元。真っ平らな胸」

「まな板で悪かったですね」

ちなみにダブルAです。リズは見た感じDくらいかな。

「どんなお客さんにも分け隔てなく見せる静かな微笑み。俊敏な立ち振る舞い。」

「かわいい女の子が好きなんじゃないんですか」

「ちょっと押しに弱くて、すぐ照れちゃうところとか最高にかわいいわよ」

反撃を試みるもすぐに追撃された。

とっさに顔をそむける。

「実を言うと、かなりサキのことを気に入っているのよ」

「私はかなりリズに冷たい態度をとっていたと思いますが?」

「でも勤務時間外は優しいってわかったわ」

お願いだからそんなにっこり微笑まないでください。

自分の耳に血が集まっているのがよくわかる。

「みみ、赤くなっているわよ」

今度は耳が隠れるように髪を伸ばそう。絶対。


気がついたら随分長い間話していたようだ。

結局ごちそうにまでなっていた。

「私がお礼のつもりで誘ったのに奢ってもらうとか悪いですよ」

「いいからいいからー」

気づかぬうちに会計を済まされていた。畏るべしリズ・ウォーカー。

「でも」

「じゃ今度はサキがおごってね」

「これが目的ですか。何とも古典的な手口ですね」

「本命の子に全力を出さないでどうするの?」

そう言うとじゃまたね、と手を振ってリズは去って行った。

最後の最後までリズにもっていかれた。今日は今年最高の厄日なのかもしれない。

白銀の髪をたなびかせ歩くリズの後ろ姿がしばらく目に焼き付いて離れなかった。

 

後日。

今度お店に来たら予定を聞いてご飯に誘おうと思っていたがリズがその後お店に現れることはなく、私はバイトを始めてからきっかり半年後ゲストズをやめたのだった。


(To be continue)


第一話目

山場作れなかったorz

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