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2話 魔王軍、勇者不足につきストライキ中

「魔王様。ご報告です」

「……次は何だ」


魔王は疲れた様子で、リリスの聞いた。


「西の平原の魔物たちがストライキを始めたとの報告です」

「なんで?!福利厚生もしっかりしているし、食料も十分配給もしている。休みだってしっかり与えているだろ?何が不満なんだ?」

「勇者がこない。やることがなくて全くやりがいがない、だそうです」


魔王は無言で立ち上がると、窓の外を見た。赤い空にゆっくりと浮かぶ、闇の太陽。

その光景すら、今はうんざりするほど変化がない。


「勇者が弱すぎるのも問題なのか」

「はい、特に戦闘職の魔物たちは、日々の巡回、土地の整備あとはそうですね。キノコの間引きくらいしか業務がないようです」


「キノコ……?」


リリスは手元の水晶タブレットを操作し、一枚の画像を浮かび上がらせた。そこには、剣を持ったオークが膝をつき、真顔でキノコの根を引き抜いている姿が映っていた。


「……」

「作業効率は良好です。しかもこのキノコ、食用です。焼けばおやつ代わりにちょうど良く割と好評ですよ。魔王様も食べてみますか?」

「いや、戦闘訓練しろよ?!なんで農作業になってんの?農作業って案外体が鍛えられるって話?」


「その通りです。農作業は全身運動ですから、筋力・持久力・集中力、すべて鍛えられます。実際、オーク第二班の筋肉量は10%増加しております」


リリスはさらりと言った。


「で、ストライキは今どの程度広がってるんだ?」

「現在、西の第二小隊が“寝そべり抗議”を実施中。草原に寝そべって空を見ております。詩を書き始めた個体もいるようで……」

「詩……?」

「“風と共に散る希望の鼓動”というタイトルの詩集が、すでに五冊に達しております」

「なんでやる気の方向がおかしいんだ!?もっとこう……魔王軍らしい暴れ方があるだろ!近くの村襲ってみるとか!」


魔王の叫びに、リリスは静かに頷いた。


「実は、一度提案されたんです。“村襲撃イベント”として」

「よし、それでこそ魔王軍だ!」

「しかし、村人と仲良くなって最後には宴会になっていたようです」

「ダメだああ。どうしてこうなったんだ。俺はいつ間違えたんだ?」


心底疲れ果てた様子で言った。


「村襲撃イベントが宴会になってどうするんだ…。魔王軍の威厳はどこに行ったんだ…。これじゃただの大食い大会だ」


リリスは少し肩をすくめながら、続けた。


「宴会も、魔王様が悪いわけではありません。村人たちは、食べ物が豊富で楽しい時間を過ごせると思って、戦わずに仲良くしようとした結果だと思われます」

「いや、それは分かってるけど、俺がやりたかったのは、荒れ狂う戦闘だったんだよ!“魔王軍、破壊の限りを尽くす”って感じで!」


リリスは冷静に水晶球を操作しながら言った。


「魔王様、冷静に考えてみてください。戦闘を続けるためには、まずは魔王軍の士気を上げる必要があります。最近、魔物たちがちょっと退屈しているのが原因ではないでしょうか」

「確かに。それもこれも勇者が弱すぎるの原因だ!勇者ちぇーーーんじ!」


魔王は怒りを込めて叫んだ。その怒声は玉座の間に響き渡った。


「そもそもだ!勇者って何?選ばれたから勇者になったの?勇者って魔王を倒しからもらえる称号なんじゃないのか??」


「魔王様、落ち着いてください…」


リリスが慎重に言った。


「落ち着けるか!」


魔王は叫び返した。


「あいつら、何が勇者だよ。選ばれてただけで何もしてねぇじゃねぇか!実力で魔王を倒して初めて“勇者”の称号をもらうべきだろ!そんなに簡単に“勇者”になれるわけがない!」


リリスは一瞬考え込み、そして冷静に答えた。


「それは、確かに魔王様のおっしゃる通りです。しかし、勇者たちにもそれなりの役割があるのではないでしょうか。例えば、民衆の希望や象徴として…」

「象徴!?希望!?そんなのに頼ってどうするんだ!希望なんてものはただの幻想だろ!現実を見ろよ!本気で世界滅ぼしちゃうぞ?!」


魔王は玉座に足をぶらぶらさせながら叫んだ。玉座が「ガタッ」と大きな音を立てた。

リリスは冷静に言った。


「魔王様、落ち着いてください。玉座が壊れたらまた修理代がかかりますよ」


「修理代も何も、俺は今、世界の危険を感じてるんだ!あんなヤツらに世界を任せるわけにはいかんだろ!」


「確かに、あの勇者たちはかなり不安ですが…」


リリスはちょっと考え込んでから言った。


「でも、最初から完璧な勇者はいませんよ。成長する過程があるんです」

「成長?あいつら、スライム一匹倒せるか怪しいぞ!どうせ、また“すごい威力の魔法”とか言って、あの小さな呪文だけだろ!“スライム、消えろ”って言って、スライムは消えない!!」


リリスは肩をすくめ、ため息まじりに言った。


「それ、昨日“スライムに跳ね返された呪文”ランキングで堂々の1位でしたね。“スライム、消えろ”って呪文、むしろスライムがピカッて光って元気になってました」

「回復しとるやないかい!!」


魔王は勢いよく玉座から立ち上がった。玉座がミシッと嫌な音を立てたが、もはや気にしている余裕はない。


「いいか、リリス。俺はな、スライムごときに苦戦する勇者が“希望”だなんて、そんな世界に生きる価値を感じねぇんだよ!もっとこう熱い戦いを…」


リリスは魔王の怒りを真正面から受け止め、少しだけ首をかしげた。


「熱い戦い……というと、例えば?」


魔王は拳を握りしめ、目をぎらつかせながら力強く語り出した。


「そうだな!剣がぶつかり合って火花が散り、最後には“フッ…やるじゃねぇか”とか言いながらボロボロの姿で立ち尽くす!それが勇者と魔王の戦いってもんだろ!!」


「今の勇者たちは“ボロボロ”というより、“ぐちゃぐちゃ”ですね。スライムに包まれて」


リリスは涼しい顔でタブレット型水晶球を操作した。

映し出された映像には、スライムの中に肩までズブズブと沈みながら、勇者が謎の叫びを上げていた。


「うわああ!溶ける!溶けるぅうう!これは毒だ!スライム毒だーっ!」

「ただのぬるま湯です」


リリスが冷静に補足した。


「何でだよ!?むしろ癒されてるじゃねぇか!温泉か!?スライム温泉か!?俺が入りたいくらいだよ!!」

「では、次の休暇で“スライム温泉ツアー”を検討しておきますね」

「企画すな!」


魔王は頭を抱えながら玉座に再び崩れ落ちた。


その頃、スライムに包まれた勇者がうっとりした顔でつぶやいた。

「……なんだろう……俺、今…癒されてる……」

「おい勇者、戦えや!!!」


魔王のツッコミは今日も空しく虚空に響くのだった。


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