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13、謎の美女と焼肉


「タン塩と上ハラミと上カルビ、上ロース。あ、もとべぇ君はご飯も頼む?」


「あ、はい。それじゃ、頼んどきます」


 丁寧な対応をする店員さんに、あいさんは注文を次々と告げていく。


「それじゃライスと、大根サラダ! もとべぇ君、他に食べたいのある?」


「いえ……お任せしておきますんで」


「んー、じゃまた追加で頼めばいっかー。あ、それと生中。もとべぇ君は……」


「ウーロン茶で」


 笑顔を浮かべる店員さんは、注文を受けてから厨房へと向かっていった。


「ごめんねー、もとべぇ君。せっかくだからちょっと飲ませて!」


「ああ、それは気にしてないですが」


 それにしても……。


「……あの、よくこのお店には来るんですか?」


「んー、初めてかなー。でも、ここのお肉美味しいって聞いたんだよね。だから、来てみたかったんだよー」


「ほ、ほー」


 平然とした様子のあいさんから視線を逸らし、メニュー表を広げて、覗き込む。



 たっけー……。



 さっき頼んだ肉一皿で、俺が良く行く喫茶店のコーヒー……あ、考えるのはやめとこ。



「もとべぇ君、お金は気にしないで良いからー。ほら、今日は私が食べたかったから誘ったわけだし―、ね?」


 ウィンクをしてくるあいさん。


「あ、はは」


 俺は引き攣った笑顔を浮かべるしかできない。

 普段行くような食べ放題の肉とは比べ物にならない、というか比べてはいけないようなお肉。

 ……いや、お肉様。


 それを軽々しくごちそうするって、中々できることじゃないよ。


「……だ、大学生って、金持ってんすねー」


「いやぁ、結構割のいいバイト? してるからかなー」


 ……どんなバイトしてるのこの人?

 あ、あれかな?

 夜のお店とか、そういうちょっとエロいところなのかな?


 俺の視線は、自然とあいさんの胸元に吸い寄せられて……考えるの、やめとこ。


「お待たせしましたー」


 そのタイミングで、店員さんが飲み物と枝豆を持ってきた。

 俺たちはそれを受け取って、


「それじゃ、カンパーイ」


「か、カンパーイ」


 互いにグラスをぶつけて、のどを潤す。


 ごくごくと、ビールのコマーシャルにそのまま採用しても通用するような飲みっぷりを見せるあいさん。


「ぷはー、ウマー!」


 口元を拭って、満足そうに笑うあいさん。

 なんだかおやじ臭い仕草だったが、それがなんとなく様になっているようにも見えた。


「なんというか……いい飲みっぷりですね」


「おー? なに、お姉さんのこと褒めてくれるの? もっと褒めて―♡」


「あ、お肉きましたよ。俺肉焼きますね。超集中しときますんで、あんまり話しかけないでくださいね」


 サシとか、肉の鮮やかさとか、見た目から美味そうなお肉様がテーブルにやってきた。

 あいさんと話をしている場合ではない。


「えー、別に適当に焼けばいいでしょ? 美味しいお肉はどう焼いても美味しいよ、きっとー」


 枝豆を口に放り込みながら、トングを握って、適当に網の上に並べる……というかぶち込んだ。


「はぁーーー、ふ、ふぇやぁー!!」


 俺は悲鳴を上げていた。


「うわー、面白い反応だね、君を連れてきてお姉さん、正解だったなー」


 お肉様を雑に焼き続けるあいさん。


「そ、そんな雑に……せっかくのお肉様が」


「お肉様? 何言ってんのもとべぇ君、ウケるー。ほい、焼けたよー」


 そう言って俺の皿に肉を取り分けるあいさん。


「おー、おいしー」


 お肉をほおばるあいさんは、幸せそうな笑顔を浮かべていた。


「……い、頂きます」


 俺も肉を口にする。


 これが一皿1000円を超えるお肉様の味か……。

 

 美味い。


 ……美味いけど、比較対象になるのが食べ放題の肉だからか、どのくらい美味いのかまでは俺にはわからない。


「美味しい?」


 にこにこと俺に向かって笑顔を浮かべるあいさん。


「美味いです」


「おー、良かった! たーんとお食べよー、もとべぇ君。あ。すみません、ビールお替りくださーい」


 あいさんは空になったグラスを掲げて、店員さんに声を掛けた。

 

 お替りも飲みながらお肉様を次々に焼いて、会話を交わしながらも食事を楽しんでいく。


 

「そういえばねー、もとべぇ君。こういう話知っているかなー?」


「……どんな話ですか?」


 嫌な予感がしつつも、俺が聞くと、あいさんは悪戯っぽい表情を浮かべてから、続けて言う。


「周囲を見て、恋人同士のカップルがいるでしょ?」


「いますね。……それ自体は別に、おかしな話じゃないですよね?」


「うん。全然おかしな話じゃないねー。さらに全然おかしな話じゃないけど。焼肉デートの後のカップルの9割は……その後エッチをします!」


「……は?」


 ……何言ってんのこの人。


「ソースは、私の大学の同期生とyah〇〇知恵袋!」


「そ、それをソースに胸を張るのは間違っていると思います!」


 嬉しそうに、俺のほっぺたを突いてくるあいさんに、否定の言葉を告げる。


 ……ていうかさ、あいさん。

 前かがみになってるからさー、胸元がさー。

 ちらちら見えてるんですよねー。


「あれー、もとべぇ君。どこ見てるのかなー??」


「す、すみません」


 俺の視線に気づいたのか、あいさんがにやにやと笑いながら問いかけてきた。


「謝らなくても良いのにー。もとべぇ君がエッチなのはもうしってるしー。あ。そうだ」


「なんですか?」


「……お姉さんたちもしちゃう?」



 潤んだ目、アルコールで上気した頬。

 あいさんとの付き合いがまだ浅い俺には、どこまで本気かわからなかった。


 

「……からかわないでくださいよ」



 本当なら、もっと余裕で、鼻で笑うくらいの返事をしたかったのだが……。


 思春期男子高校生にはハードルが高いのだった。


 

「んふー? ま、からかっただけだよー。お姉さんは、そんなに安い女の子じゃないので、もとべぇ君が情熱的にアプローチでもしない限り、そうゆうことはしてあげません―」


「その言い方だと、俺が情熱的にアプローチしたら、そういうことをしてくれるって受け取れちゃうんですが」


 と、言ってから。

 俺は自分の失敗を自覚した。


「……それじゃ。試してみる?」



 明らかに俺の自爆だ。


 ドキッとするようなあいさんの流し目から目を逸らして。


 俺はお肉様を食べることを選択した。

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新作投稿!主人公のイケメンを差し置いて、友人キャラの俺がモテまくる!?!
友人キャラの俺がモテまくるわけがないだろ?
ぜひ読んでください(*'ω'*)

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