維新の構想
そこから俺の考えを大雑把に説明始めた。
とにかくこのまま武力統一でもされた日には俺が将軍に祭り上げられかねない。
それだけは絶対に阻止しないといけない。
ならば俺が抜ければいいかというと、九鬼さんとの関係を見てもわかるように許されそうないので、それならばということで無い知恵を絞り必死で考えたのが合議による政だ。
本当は民主制のほうが俺にはなじみがあるのだが、そもそも民主制というのはその国に住まう民たちの民度と言えばいいのか、教育された知性や知識、それに道徳心などそういうものを合わせたものが成熟していないと成立しない。
ただ、やみくもの選挙で選べばいいという簡単なものではないと俺は考えている。
何せ、令和の世界でも選挙こそしているがとても民主とは呼べないような国がたくさんあったのだ。
それを欧米は過去の自分らがしてきた悪行から目をそらすためなのか、やたらと人権をお題目に民主制を無理やり進めていくから失敗する国がたくさん出る。
話がそれてきたので、現状に目線を戻しても、今のこの国の庶民の教育レベルからは絶対に無理だ。
下手をしなくとも武士階級だけに絞って集めても無理かもしれない。
だからこそ、人を選び、その中から選んだ人たちで合議制を取ればどうにかなるかもと俺は考えている。
手本としては江戸幕府の老中制度辺りがしっくりくるかもしれない。
老中就任には将軍の意向もあっただろうが、その時の幕府内の空気のようなものや政治力から選ばれた人たちが就任していたようだが、それを見習ってじゃないがそれなりの知見を持つものを集めて合議させようとして考えたのが俺の維新構想だ。
俺の知る明治維新ではすぐに武士階級そのものを否定して貴族と庶民と言う西洋と同じような体制に持っていかれた。
基本、貴族以外ではみな平等というやつだ。
フランスの啓蒙思想でも入ったのか知らないけど、今それは出来ないし、するつもりもない。
あれが成功したのはひとえに庶民の教育レベルの高さがあったためで、これは江戸幕府の功績の一つでもある。
自由とか、民主制とかには責任が伴うのだが、それを理解していなければただの独裁者を公認するだけのものに成り下がる。
今この国の教育レベルではそれよりもはるかに酷いことになりかねないし、何より、殺伐とした世情にあって武士階級と言うステータスも明らかに存在しており、その武士たちによってかろうじて治安が守らえている面もある。
なので俺は武士階級を現状のままとはいかないだろうが認めていく。
その武士たちの中から、人を選び政に参加させる仕組みを作りたい。
また、武士だけでなく公家にも声をかけないと絶対に主上を盾に取り邪魔してくることが見ていたので、一緒に合議させる方便として新政をはじめに挙げて、そのあとに、武士との対等な立場での合議に持っていこうとしたのだ。
これも決定ではない。
そもそもほとんどが先の説明の折に俺がでっち上げた思い付きのようなものだ。
思いつきなので、俺の案ともいえないような維新構想は叩かなくともかってに埃がどぼどぼとでてくるようなものだけに、これから戦国チートたちを集めて詳細を決めていけばいい。
その際に俺の関与をできるだけ少なくできれば俺の勝ちだ。
まあ、とにかく先の説明でたたき台のようなものができつつあるので、一度五宮と協力しながら紙に起こして議論を深めていこう。
俺が集めた席でぶち上げた構想はすぐにどうとかなるようなものでもなかったのだが、静かにしかし確実に広がっていく。
特に、日々の生活に汲々としている貧乏貴族たちにとっては希望にすらなりつつあるようだ。
この現象は予想外だった。
しかもあまりよろしくもない。
貧乏貴族には貧乏になるだけの理由がある。
全員が全員という訳ではないだろうが、そもそも平安の世でもまじめに政に参加していたとは思えない連中も多くいるのだ。
現代にあっては、生活に窮しているからというのもあるが、政の本質が庶民にあることを理解していない連中があまりに多い。
俺が話に聞く限り、期待して動き始めた連中にはこの手の輩が多そうだ。
新たな世になれば、働きもせずに庶民が自分らに貢物を持ってくると勘違いしてそうなので、騒ぎが大きくなる前にどうにかしたい。
武士だけでなく公家に対しても人を選ぶ作業は必須のようだ。
しかし、俺には妙案が思い浮かばない。
五宮にでも相談してみると、彼はあっさり一言を言い放つ。
「放っておけばいいのです」
「何もしないと……」
「ええ、今は空殿のおかげで、仕事はあります。
その仕事に何ら興味を示さない連中はこの先使えないでしょうから、自滅を待てばいいのではと思います」
彼はすごいことを言い放つが一理ある。
確かに俺が京に来る前までには京の町は酷かった。
治安は最悪で、しかも公家たちは何もしないというよりも日々の生活の糧を稼ぐので汲々としているような状況だったのだ。
さすがに主上の御膝元でこれはまずいと思い、文化面ならば使えるだろうと貴重な書物を中心に写本の仕事を作った。
これならば決して外面も悪くないはずなのだが、それすらせずにこちらにたかりに来るばかりの公家も後を絶たない。
俺は使えない公家たちには写本の仕事を紹介するだけで、何ら利益は供与していない。
そんな態度の俺に恨みでも持ったのか、今まで何度もそいつらに邪魔されてきたのだ。
幸い、公卿の大御所である太閤殿下の伝で事なきを得ていたのだが、そんな奴らのために俺が何とかしてやる義理などない。
義父でもある五宮も同じ思いなのか、先の発言につながっているようだ。
これがすべて近衛の一派に繋がっていればまとめて対処のしようもあるのだが、そういうところはとにかくしたたかな連中ばかりなので、なかなか尻尾を見せない。
今後も邪魔は入るだろうが、近衛のような影響力もないとのことなので、こちらの体制が固まるまでは無視で問題ないと、五宮は考えているようだ。




