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第八十八話  東部戦線

 昭和二十四(1945)年十一月、我が国では展示演習でガス抜きが行われ、皇室農園では無事にソバの収穫が行われた。


 困ったことと言えばあれ以来、陛下が事あるごとに農園へやってくることくらいだろう。そういえば、植物学の研究してたっけか。そうなると、農作物もその対象という事で、農園でも何かしら・・・・・・

 という理由を付けて農機を乗り回しているようにしか俺には見えない。


 日本は平和だった。しかし、ユーラシア大陸はそうではない。中華大陸では米国と中国共産党の激しい消耗戦が続いている。今やモンゴル西部も事実上、モンゴル人民革命党が支配するようになっている。米国はその火力によって一面では押し込んでいるが、数百kmにわたる戦線の構築によって、現在三十万の兵力を動員している。米国の国力からしたら微々たる戦力に見えるのだが、それが数年にわたり戦闘を繰り広げるとなるとやはり来るものがあるらしい。


 米国内では単に厭戦工作だけではない疲弊が見られるようになっている。


 なにせ、いくら進んでもまともな勝利の形が見えず、攻撃されるのは最前線よりも後方の補給拠点だったり、占領統治している街だったりするため、兵の疲弊は大きく、部隊は頻繁に交代している。すでに二度目、三度目の大陸派兵という部隊も見られるようになっているが、全く事態は改善しない。


 そして困ったことに、ドイツ派が主流を占めるようになった民国軍は米国にとって当てになる存在ではなく、その上、華北地域では共産党の浸食も激しく、民心も失っているという有様だった。

 日本と民国は一応の停戦状態であり、ドイツからの支援も再開されてはいるのだが、如何せん、民心掌握が出来ておらず、華南の支配確保に汲々している有様なのだ。

 日本やロシアは表立って対中戦争に参戦はしていないが、モンゴル・ハーン国の保全のための支援はしており、何とか、モンゴル東部の保持が出来ていると言った状態ではあった。



 欧州に目を向けると、Sタンクの順調な配備で何とかフィンランドの防衛が行われている。すでに初期型を撃破可能な高射砲の使用や自走砲をソ連が投入している事で、装甲の強化が行われている。すでにSタンクにより強力な75mm砲を装備しるための試作も始まっている。前世のT34やKV1の登場をにらんだ布石である。


 日本に関わる部分はそんな状況だが、ドイツ陣営はまた違った様相を見せていた。


 前世の記憶から行くと、開戦半年もすればバルト三国だけでなく、ウクライナへも侵攻していたと思うのだが、この世界では状況が少し違った。


 六月にバルト三国での小競り合いからなし崩し的に本格的な交戦へと拡大したのち、まず仕掛けたのはソ連だった。

 ソ連は北部のフィンランドとの戦争が苦戦している事から、他に活路を見出そうとしたらしい。

 ドイツがバルト三国に展開した時期にはウクライナに戦力を集め、ルーマニアのベッサラビアを窺っていた。そして、バルト三国で戦火が拡大するとともにベッサラビアへと侵攻を開始した。


 前世では、ポーランド分割と共に独ソの密約に沿った行動だったが、こちらではどうかわからない。


 なにせ、ヒトラーはすぐさまベゥサラビア侵攻を批難し、欧州防衛隊同盟を呼びかける動きを見せていたんだから。

 もちろん、密約による侵攻を利用したという線もないではないが。


 何はともあれ、この大同盟構想にルーマニアは狂喜し、東欧諸国は一様にドイツへの協力を表明するに至る。

 そうして、八月には早くも反撃準備を整えるとルーマニアの旧領回復だけに留まらず、ドニストル川西岸域を占領し、南部防衛線を構築する作戦を実施した、十一月現在、ドイツは装甲師団と空軍による電撃戦を展開してほぼ目標を達成している。


 空軍機はご多分に漏れず、あれだ。前世と同じスツーカという近接攻撃機。違いはターボプロップ搭載による搭載量と運動性の大幅な向上。そして、当初から大口径機関砲を装備していた。

 さすが、未来を知る男、的確な指示を出している様だ。


 こうして冬を迎える十一月には東部戦線に一大防衛線が築かれるに至っていた。中央がガラ空きに見えるが何か意図でもあるのだろうか?


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