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第八十六話  転生なんちゃって農家 3

 佐藤さんが亡くなったという知らせに気落ちしている暇もなく稲刈りが行われた。


 作物は生き物だから人間の都合で待ってくれたりはしない。


 稲刈りを終えて建物内で組み上げた乾燥機へと籾を移して平らに均していく。頃合いを見てかき混ぜてやらないと乾燥むらが出来てしまうのがこの乾燥機の欠点だが、機械収穫を行う以上、避けては通れない。できれば早いうちに誰かが循環式乾燥機を完成させてほしいところだ。


 平型乾燥機を使うので人が常駐して時折様子を見ないといけないが、そこはそれ、皇室農園なので近衛兵が番をしている。しかも農村出身者が行うので、ここでの任務は兵役明け後の農作業にも生かされることになる。

 もちろん、近衛ばかりでなく、近隣の連隊からも人を集めて講習や作業を行うので、関東一円の農業にも一役かっている。


 個人的な理由で拓いた農園なんだが、何だかんだで農業試験場としての役割を担うようになっている事には安心している。将来金食い虫とか言われずに済みそうだ。


 そして、この農園の特徴が、皇族が自ら機械を扱ったり作業をしている事だろう。主に我が家、上総宮家だが、今後の皇室の在り方のモデルとして他家も誘っている。陛下が来ようとしたときは押しとどめようとしたが叶わなかった。


 というか、今、目の前でトラクターで走り回っているんだが、追いかける侍従たちが大変そうだな・・・・・・


 暫くそれを眺めていた。

 先日稲刈りを終え、今日はソバをまくための準備をする予定となっていた。先日はさすがに天覧稲刈りという訳にもいかないので思い留まっていただいたが、今日は押しとどめる理由がない。こちらからやめてとも言えない。


 そして、侍従に付き添われてトラクターを視察し、間の悪い事に側に居た兵に操作法をご下問され、教えてしまったものだから、今の事態に至る。

 兵よ、君は何も悪くない。


 トラクターの開発を始めたのはずいぶん昔の事だったと思う。

 内燃機関が実用化される以前から蒸気機関を備えたトラクターが存在し、日本でも北海道で使っていた。


 多くはホイールタイプだが、中には最新式のクローラ式も存在したようだが、前世でいえばブルドーザーを田んぼで走り回らせるような話で、ホイール式の方が何かと好まれていた。使い勝手はクローラだったろうが。


 そんな重量がかさばる蒸気トラクターで行っていたのは、牛馬の時代と同じ犂による耕転、表層から10~30cm程度の深さの土壌を反転させる作業だった。

 もちろん、反転させただけでは大きな土塊のままだから、それを細かく砕く馬鍬、軸に棒が生えたものやフォークのような棒が並んだものだが、それを曳いて土塊を細かくしていく作業が必要だった。


 前世、普及していたのはロータリーという、耕すと同時に細かく砕くことが出来る機械だったが、当時はまだそれらしい特許がいくつかの国で見られるだけの段階で、販売しているところは存在しなかった。


 俺は内燃機関開発で知り合った山岡さんにロータリー開発を依頼し、前世の形を教えて早速試作してくれたが、なんせ溶接のない時代、いろいろな工夫が必要だった。その時実用化できたのは、前世でいうロータリーハローに近いだろう。わずか数cmの深さをかき混ぜるのがやっとの代物だった。

 それでも、工夫と電気溶接の実用化で形になったのが、トラクターの実用化とほぼ同時だった。


 初めは手押しの耕運機用から始めて大型のものまで開発の手を広げていく方向で開発を進めていった。


 耕運機の販売が始まったのは昭和四(1925)年の話だったと思う。この時、ロータリーは完成してはいたが、実際に使ってみると不具合が多く、犂を開発する必要に迫られることとなった。

 そこで、耕運機に使えるような犂の開発をと探したところ、長野県にうってつけの犂を作る人が居た。


 その人の犂は通常の片側だけに反転させる犂ではなく、どちらにも反転させることが出来た。そして、ロータリーにも興味を持ったようで、彼が加わって、ロータリー開発にも格段の進展がもたらされることとなり、昭和二十(1941)年には軍と民間で共用する統制型ヤンマーエンジンを搭載したトラクターと共に発売することとなった。





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