第八十一話 Sタンク
第二次ソ・フィン戦争において、フィンランドでは前世のⅢ号突撃砲に当たるオリジナル駆逐戦車が大活躍している。
まだまだ戦車の発展は前世に追いついていないが、すでにそれなりの装甲を持った車両が存在している。
第一次ソ・フィン戦争において装甲車と歩兵がいい様に包囲殲滅されるという悲劇に見舞われたソ連軍は、歩兵直協戦車の必要性と騎兵戦車の有効性が認識されていたようだ。それを示すように第二次ソ・フィン戦争では前世ドイツ軍顔負けの電撃戦が行われている。その攻勢を阻んだのがs.h44という駆逐戦車だった。
s.h44の開発は第一次ソ・フィン戦争終結とともに始まっていた。主導したのは日本メーカーで、当時フィンランドへ輸出していた軽戦車をベースに大口径対戦車砲を装備するように改設計されたものだった。
前世でいえば九四式軽装甲車に似た豆戦車を少々大型化した代物で、37mm歩兵砲を装備した車両だった。
当初は2听砲を想定していたが、そこは俺の一声で6听相当へと格上げされることとなった。しかし、当時、そのクラスの砲は存在しておらず、フィンランドの隣国スウェーデンが40mm機関砲を完成させたところだった。
前世では1936年には発表していた40mm機関砲だが、こちらでは四年遅れでの発表だった。前世、この40mm機関砲から派生して57mm機関砲が造られるわけだが、それを見越して早々と57mm砲の制作をフィンランド経由で依頼した。
スウェーデンでは対空砲を想定して、40mm機関砲をそのままスケールアップした57mm砲を試作してくれた。その結果出来たのが、60口径57mm砲だった。
日本メーカーでは当初2听砲を想定していたため、前世の駆逐戦車ヘッツァーのようなものを設計していたのだが、完成した57mm砲は6听相当とはいっても、砲身長は当初想定の2.4mではなく、3.4mにもなる代物だった。
当時、世界の対戦車砲は37~45mmが一般的で、57mmという大口径には疑問の声も多かったのだが、ソ連の45mm対戦車砲に対する防御を前提にして自国の戦車が47mm砲かそれ以上という時代であることから、「自国戦車をその射程外から撃破しうる戦車砲」の必要性を説いて納得してもらった。
とは言え、良質の徹甲弾を使えば千mで100mm近い装甲を貫通できる威力は当時、空前絶後だった。
その様な砲を採用するにあたって、ヘッツァーのような車両では無理があることは明白だった。
そこで、俺はSタンクのようにフロントエンジンで後方に戦闘室を設けた車両を提案したのだが、当初は疑問ばかり口にしている関係者が多かった。
しかし、実際にその試作が完成すると評価は一変した。もともとフロントエンジンだった36式軽装甲車がベースとなっているから構造を変更して一般的な戦車や自走砲を作るよりも容易だったというのもある。
当然、問題としては冷却ダクトや整備ハッチが装甲板としての厚みを持つことから通風性や整備性が下がるという問題も発生したが、大傾斜角を持つため、装甲厚は35mmに抑えられているので最低限の整備性や通風は確保できている。
しかも、戦闘室が後方に配置されているため、長大な3.4mの砲身は車体長にほぼ収まるという好結果まで存在した。
もちろん、Sタンクと違い砲は俯仰できるようになっている。
そして、エンジンには日本らしくヤンマーエンジンを採用し、先に制式化されている40式軽戦車の6気筒エンジンにターボを装備して130馬力から170馬力まで増加させたシロモノを搭載して、重量がある車体にも拘らず、時速40km以上の速度まで実現した。
日本でそうした試作が終わったのが昭和二十二(1943)年3月の事だった。
それからフィンランドでの試験と生産設備の建設に入り、昨年夏にようやく設備が完成し、s.h44として制式化され、生産が始まったのが十一月の事だった。そのため、未だに前線には百両に満たない車両しか配備できていないはずだが、それでもかなりの活躍らしい。
被弾経始も良好で装甲が薄いわりに十分な能力がある、しかも、砲は徹甲弾だけでなく榴弾もあるので英国面に堕ちる心配はない。
フィンランドやロシア公国での使用を考慮して幅広履帯にしているのも良かったのだろう、しかも、扱っている兵たちはアノ教導隊が鍛えた人材とあってはそりゃあね・・・・
今後、数が揃えばより楽な戦いも可能になるだろう。
下手な75mm砲より威力のある57mm砲とあって、75mm砲装備の戦車の配備が始まっている日ロでの採用まで行われている優秀な車両になっている。
s.h44
全長 4.66m
全幅 2.65m
全高 2.09m
重量 12.6t
速度 45㎞
主砲 60口径57mm砲
装甲 前上下面35mm、側面35mm、後部25mm
エンジン 排気過給式直列6気筒空冷ヤンマー・エンジン
出力 170馬力
乗員 4名
「ところでこの車両、ほとんど俯角がとれないけどどうやるの?」
「それは土嚢や盛り土に乗り上げて角度を付けます」
「そうすると、この急角度の前面装甲の意味が無くならない?」
「そこまで考慮してのこの角度です。土嚢での俯角をとっても十分45mm砲はおろか40口径程度の75mm砲にも対応可能です。こちらは千mで100mmの装甲を抜けますから」
このような自信に満ちたフィンランド軍将校の説明を受けた観戦武官たちはその後の大活躍を聞き、後にこの車両をSタンクと呼ぶようになったという。




