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第七十三話  さらなる混乱

 昭和二十三(1944)年一月十二日、日本が困っているところにさらなる混乱の情報が入ってきた。


「おいおい、このタイミングでやらなくても・・・・」


 俺はその報に触れてまずそう思った。


 それは昨日、最近関係が悪化していたタイとフランスが開戦したというのである。ここ数年来両国は領土問題でもめていた。そのこと自体は知っていたのだが、日本が海南島の民国海軍基地を破壊した事で民国の圧迫が無くなり、近いうちに海南島への日本軍侵攻があると予測したタイが日本の支援を当てにして先走ってしまったものだった。


 日本は日英関係の絡みで東南アジアの英国領へも海軍を中心に派遣している。そして、タイとはもう十年近く前から軍事協力も行っている。当然、タイの軍近代化にも協力しており、海軍艦艇は日本からの供与や輸入が多かった。


 陸軍には一世代古いとはいえ、日本式の火力攻撃戦法が十分可能な兵力が整いつつあり、空軍にも36式を中心に戦闘機や軽攻撃機が配備されている。海軍は夕張型巡洋艦や民国の装甲艦に対抗できるミニ戦艦を保有していた。

 その兵力に自信を持っていたタイは日本の支援を期待して侵攻、方やフランスはドイツとの経済同盟交渉に夢中でアジアの小事は気のない返事しかしていなかった。

 外交自体が両国はすれ違っていたのだから、開戦もある意味仕方がなかった。のだが、まさかこのタイミングでなくてもよかっただろう?



 戦争の経緯は圧倒的な兵力を有するタイではあったが、侵攻した陸軍はフランスの巧みな誘導で誘引、撃破されるという状態だった。物量で押し込んではいたものの、被害は小さくなかった。しかし、そもそも小兵力だったフランス軍は徐々に押されているという状況。


 海でも戦いは行われ、前世とは違い、シャム湾海戦において、トンブリがフランス艦隊旗艦、巡洋艦フォッシュを撃沈している。

 撃沈できたのは幸運もあるが、前世よりも充実したタイ海軍の状況とトンプリ級の性能が違ったことも大きいだろう。


 前世のトンプリ級は日本の重巡洋艦が主砲として装備した20.3cm連装砲を2基装備する小さな海防戦艦だった。


 対して、現世のトンブリ級は12吋連装砲を備えている。

 タイの海軍拡大計画の際には新造艦ではなく、夕張型が供与されたことで十分な戦力とみなされていた。しかし、昭和十九(1940)年に民国がドイツより装甲艦を購入すると、海南島に設けた海軍基地を拡大し、そこへ配備するに至った。さらなる増強を警戒したタイは装甲艦に対抗できる艦艇を日本に発注してきた。


 その要求が装甲艦に真正面から対抗したものだった。

・民国の装甲艦に伍する事

・主砲は10吋以上

・防御能力は装甲艦の主砲に耐えることが望ましい

・速力は極力装甲艦と同等以上が望ましい

・艦はタイにおいて維持が可能な規模、コストである事

・出来るだけ最新の装備を施し、装甲艦を圧倒できることを望む


 という、ある意味とんでもない贅沢なものだった。


 そんなものをどうやって造れと言うんだ?と、日本の技術者は頭を悩ませた。まず提示したのは金剛型の供与ないし、同等艦の新造だったが、タイ海軍はそれをデカイと仰る。

 ならばと8吋連装砲を搭載した巡洋艦を提示するが、それは違うという。

 日本の技術者は無理な要求にそんなことを言うなら弩級戦艦でいいだろう?と投げやりな提示をしたらあろうことか食いついてきた。


 この世界での弩級とは、12吋連装砲2基を備え、23ノット程度を発揮する高速戦艦の事だ。3基以上の主砲を備えた前世の弩級に相当するのは土級。


 この世界においては、12吋連装砲2基を備えたいわゆる標準戦艦に蒸気タービン機関を装備し、標準戦艦より3~5ノット速力を向上させたドレッドノートの名前を冠して弩級と呼び、多数の主砲を備えた艦は日本の土佐型戦艦が最初だった。

 そのため、紛らわしいが、速力を向上させた主砲2基の艦が弩級、現在の戦艦の祖を土級という。ただ、今では土級ばかりが主流であり、一世を風靡した弩級は忘れられた存在ではあるが。


 その忘れられた弩級戦艦に興味を持ったのがタイだった。

 もちろん、今の時代にそのまま弩級を建造しても装甲艦を圧倒できはしない。新規に今風の設計をしなければならなかった。


 そこで射撃管制を改装後の金剛型と同じレーダー射撃方位盤とし、砲塔は新型戦艦用の自動装填機構の実証として新規設計とした。その上で、装甲艦に伍する速力という要求には新型駆逐艦のガスタービンを採用している。

 主砲は2基しか装備しないが、どことなく改装後の金剛に似ている。というか、金剛型の改装経験をもとに色々その技術を応用、流用したやっつけ仕事だったのだが。


 その様な冒険をして完成させたのが昭和二十二(1943)年一月の事だった。トンブリ、スリ・アユタヤの二艦がほぼ同時就役だが、それは同じドックで並行建造されたからだ。

 この二艦は今後予想されるソ連やドイツとの戦争を想定したブロック工法による急速建造の実験台になってもらった。24時間3交代、実際は5グループほどの工員によって戦時体制の実証実験として建造が行われた。そのため、建造は僅か一年半と驚異的な短さとなっている。時間を要したのは新規製造の主砲塔くらい。あとの大半は流用で賄うという状態だった。その割には完成後に不具合もなく、性能も良好だった。

 実験は成功と言って良いだろう。


 そうして建造された艦だが、ガスタービン自体は既に駆逐艦で実績があるので技術的な問題はないが、タイ海軍乗組員の習熟が心配された。しかし、引渡す頃には十分なレベルに達したので一安心。

 砲塔の自動装填機構は5.5吋砲で試作実績があったので問題は起きていない。そうして十一月に正式にタイ海軍へ引き渡しが行われて、すぐにこれだ・・・・


 幸運とはトンブリ級が間に合った事も含まれている。普通に建造していたら戦争には間に合っていない。というか、早期の完成が戦争の引き金になったかもしれないな・・・・


 それはそれとして日本でも主砲級の自動装填機構の採用は初めての事だったので、完熟訓練には力が入っていた。そのため、タイに到着した頃にはトンブリ級は日本海軍と遜色ない練度と言えるまでになっていたのだった。


 そして三月二日、前世ではフランス側のワンサイドゲームだった海戦はタイ側が数で圧倒した上に、その砲力でも圧倒していた。練度は少なくともトンブリ級二隻とフランス艦隊は互角だった。その状態だからこそ、フランス巡洋艦はトンブリ級の12吋砲の前を走り回る標的同然となってしまった。巡洋艦の防御力など12吋砲の前には無意味なのだから、同等の練度を持った戦艦主砲に狙われたらどうなるかは容易に想像できると思う。


海戦は8吋砲や6吋砲ではびくともしないトンブリ級が終始、主導権を握ることとなり、当然の結果としてフランス艦隊は敗北する。


 この海戦によって制海権を失ったフランスは継戦の意思を挫かれ、四月には陸上戦での被害も無視できなくなっていた。フランスのさらなる増強による戦争の拡大を恐れた英国の仲介によって五月末には停戦という運びとなった。

 この戦争にはタイ側軍事顧問として複数の日本軍人が居たのだが、まあ、その程度は問題というほどの事はない。それよりも、自国の財政事情も考えずにタイがさらに二隻もトンブリ級を発注してきたことに驚いた。すでに艦名は決まっているとかで、スコータイ、ビッサヌロークという名が提示されている。いや、名前を決める前に考えるべきことがあると思うんだが?


 これが単にタイとフランスの戦争だったらよかったのだが、フランス領インドシナではアカい話が出始めている。そして、インドシナはフランスの敗北でさらなる混乱が広がっていくことになる。このままいけば前世のインドシナ戦争状態まっしぐらかも知れん。



海防戦艦  トンブリ級

排水量   11500t

全長      122m

幅      21.5m

主機 ガスタービン 2軸

出力   54000馬力

速力      29ノット

兵装 12吋連装砲2基、5.5吋単装砲4基、3吋連装砲4基他





好みの戦艦の名前を上げろと言われたら、金剛型、長門型、ビスマルク級に並んで、スウェーデンの海防戦艦スヴァリイェ級なんだ。


戦艦と言えば連装砲塔4基こそベストと思ってるんだけど、1万トン以下の小さな艦に28cm砲を積んだその姿がなんとも愛らしい。

フィンランドのイルマリネン級やタイのトンブリ級も捨てがたい。


そこでこんなものが浮かんでしまった。反省はしていない。

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