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第六十話   戦艦 金剛

 昭和十八(1939)年十月十八日に始まったソ連のフィンランド侵攻に対して日本はすぐさまフィンランドへの支援を準備した。


 未だ日米の戦いさえ終わっていない段階だったが、まず必要な事は、欧州へのソ連軍の誘引だった。そうすることで日米が争っている隙にロシアへ侵攻してくる可能性が下がる。


 俺は前世の冬戦争が半年程度で終わることを知っていたが、こちらの戦争がその通りになるかどうかは分からなかった。

 日本からの支援は正直、在庫一掃となっている。擲弾筒や小型迫撃砲は既にアルミ製の軽量な新型が採用されており、まだ実用に耐える旧型が予備として倉庫に大量に眠っていたのだが、それをフィンランドへと送ることになった。そのついでとして少しでもソ連軍に打撃を与えるため、近衛師団の超人部隊から志願者を募りフィンランドへ送り出した。


 そうこうしているうちに米国との戦争は終わり、太平洋には平和が戻った。

 とはいえ、すべてが平和という訳にはいかない。ロシアではソ連の侵攻に備えて日本軍も増強されているし、混乱が収まれば米国からも増援が駆けつけてくることになるだろう。


 昭和十九(1940)年三月末、桜が咲くころにようやくドックを離れた一隻の戦艦があった。


 米艦隊の応急修理が終わり、彼らが帰路につく中、同じように外洋へと向かう戦艦を目撃した。


 その艦はこれまで日本にあった戦艦のどれにも似ていない。ただ、土級程度の大きさ、砲口径、門数という、今更新造するには時代遅れとさえ思える艦容だった。


 それもそのはず。


 彼らが見たのは新型戦艦などではなく、改装を終え公試へと向かう金剛の姿だったのだから。


 金剛型は戦艦出雲の改装が終わった昭和十六(1937)年から順次、第二次改装の工事に入っていた。


 第一次改装は昭和八(1929)年頃に行われ、射程延長や射撃持続能力の向上などを行っていたが、今回、レーダーの実用化に合わせてさらなる改装が行われることになった。


 幾ら戦艦の進歩が遅れているとはいえ、すでに建造から二十年を超えた戦艦がそのまま第一線で活躍できるわけもない。時代は既に14吋を超え15吋の時代に入ろうとしている中で12吋砲しか積まない金剛型では主力たりえないのは明白だった。


 しかし、金剛型だから出来る事もあった。


 それは前世と似たような話で、水雷部隊の露払いや空母部隊の水上打撃戦力としての役割である。


 そのため、当然ながら26ノットではどうしようもない。そこで、ボイラーの性能向上に合わせた換装を行い、出力を大幅に向上させ15万馬力にまで引き上げることがまずは一つ。これによって33ノットを実現することとされた。


 速力を出すためのもう一つとして、船体の延長も行われ、198mだった全長は206mまで伸びている。それに合わせて防御を兼ねたバルジも設けられ、幅も1mほど拡がってしまったが・・・


 この拡がった幅の恩恵を受けたのが艦橋構造物だった。


 当初は新型戦艦、尾張型と同じ塔型艦橋が予定されていたが、レーダー装備への最適化を検討した結果、巡洋艦型艦橋となり、その背後にマストが立ち上がる構造に変更されている。

 改装に四年を要した最大の理由は搭載レーダーが二転三転してなかなか決まらないところに英国からより高性能なレーダーがもたらされたことにある。


 巡洋艦型艦橋としたことでその恩恵を受けることになったのだから改装遅延も悪い事ばかりではない。

 最新型レーダーが搭載され、しかも、レーダーの換装も考慮されている。


 こうしてレーダーによる精度の高い監視能力と射撃能力の獲得ができることで、旧態依然の12吋砲では威力不足となるのは明白だった。


 そのため、主砲も尾張型の高初速重量砲弾型の経験を生かして新たに設計された長砲身型の12吋砲に換装されている。これは順次、ロシアへ売却された旧土佐型にも行われていくことになる。


 このようにして改装された金剛型は当初の戦闘巡洋艦から戦艦へと艦種変更がなされている。


 金剛型のライバルとなる艦はドイツの巡洋戦艦シャルンホルスト級だろう。


 シャルンホルスト級は英独海軍条約によって12吋砲三連装9門が装備されている。防御力の方も新型戦艦らしくかなりのものらしい。

 残念ながらカタログスペックでは金剛型が劣っているが、双方の役割の差を考えると致し方ない。


 シャルンホルスト級は通商破壊を任務として単独で戦艦と対峙することを念頭にしているが、金剛型は水雷戦隊や空母部隊の一員として戦艦と対峙するという、想定する環境がまるで違うのだから。




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