第五十八話 とある首相の憂鬱 2
「現在ソ連軍はソ・フィン国境全域から侵攻を開始している模様であり、特にカレリア地域はレニングラードにも近く、ヘルシンキへ至るルートを確保するため、最も兵力が集中しているものと思われます」
「それで、ヘルシンキはいつまでもつと思う?」
「英国の支援が行われ、善戦したとして半年、現状のままならば年明けまでにはソ連の手に墜ちると思われます」
「そうか、フィンランド以外への影響はどうだ?」
「それに関しては、すでにリトアニア、エストニア、ラトビアへの政治工作が顕著であり、一年以内にはソ連が介入すると思われます。フィンランド情勢次第では年明け早々にも実力行使が行われるかもしれません」
「そうなると・・・」
「はっ、現在、東プロイセンにおいては特段変わった様子は確認されておりません。ポーランドもソ連への警戒を優先している様子で回廊問題に特段の動きは無いものと思われます」
「念のためだ、軍に警察、出来るだけの事をやる必要がある。何としてでも我が国に影響が出てはならない。東プロイセンで騒ぎが起これば我が国は嫌でもポーランドと事を構えることになる。英国は口ではポーランドを突き放しているが、実際戦争となればわからん。以上だ」
「あ、まて、外相と情報相は残れ」
首相執務室に集まったメンバーがぞろぞろと部屋を後にする。
「あの銀行強盗は何を考えている?せっかくチャイナに工作して米英関係に傷を入れようとした矢先にこれだ。大体なんだ、なぜ英国の忠犬の島で騒ぎが起こるんだ?そんな話は聞いていないぞ?」
首相は情報相を睨むが情報相はかぶりを振りながらそれに応える。
「あの騒ぎはソ連の仕業かと思われます。実働部隊はコリアだそうです」
「コレラ?おい、そんな危ない細菌をばらまいたのか?銀行強盗ならやりかねんが、それがもとで爆発や火災が起きるとは、連中のやることは予想がつかん」
情報相は間違いを指摘しようと思ったが止めた。コリアだろうとコレラだろうと、今必要な情報はそこではなかった。
「おかげで米日は戦争になりました」
「ああ、そうだ、情報相の言う通りだ。あんのバカ大統領はカネに目がくらんでホイホイこちらの工作に騙された挙句、銀行強盗にケツをけられておっぱじめやがった」
「だがどうだ?銀行強盗自身が米国に冷や水浴びせて目を覚まさせてしまったではないか!!戦争させるならもっと戦わせて疲弊させなければ意味がないだろう?シベリアの端とあの黄色い島国にはロシア皇女が居る。米国のヒロインに危険が迫れば目先の争いよりもヒロイズムが優先するヤンキーどもの気性も知らんのか?ウォッカ飲みながら作戦考えなんじゃないのか?」
「しかし、米国が戦時体制に入れば大戦時同様手の付けられない状態になります」
外務大臣は首相を諭す。
「そんなことは分かってる。我が国が静かにしているのも英国と忠犬の海軍力に対抗するだけの戦備が必要だからだ。確かに米国の生産力は脅威だが、連中は・・・、クソッタレ!!英国にも連中のヒロインが居やがるじゃないか!!!」
「はい、ですから・・・」
「ああ、だからこそこうして静かにしてるんだ。そして、チャイナを使ってジワジワあの欲深ジジイをこちらに引きずり込もうとしてたんだ。それがなんだ?コレラだ?いい加減にしろよ、銀行強盗が!!猿がいくら死のうと知ったことではないが、銀行強盗は一応我が国の盟友ではないのか?それが足を引っ張ってどうする。ウォッカばかり飲みやがってろくにシラフでモノを考えていないんだろ。多少は我慢を覚えたらどうだ」
「では、我が国もフィンランドを・・・」
「直接は無理だろうが、英国船舶の通行は一切制限しない。何なら我が国の港から物資を積んでもらっても構わん。銀行強盗がこれ以上予想外の動きをしないためにフィンランドに縛り付けるんだ」
「承知しました」
「それとだ、チャイナへの支援も増やせ、黄色い禿げ頭も米国とできるだけ切り離してこちらに引き込め、欲ボケジジイが居なくなった米国はハゲへの支援も減らすだろうし、銀行強盗がチャイナで騒ぎを起こすようなら好都合だ、米国や英国の忠犬をチャイナに釘付けにして欧州に関われないようにしてしまえ」
その時、ドアを叩く音がする。
「入れ」
「首相、米日が停戦した模様です」
「そうか、ご苦労」
首相はその男が出ていくのを待つ。
「あんの銀行強盗、絶対許さん!!!」




