第四十八話 たーびにあ2
仁淀が改修を終わり、試験に入った。夕張型は四万馬力しかなかったが、仁淀に搭載したガスタービンは六万馬力、初の実艦試験なので出力を抑えている。そのうち何も問題なければ全力八万馬力まで狙うことが出来る。
さて、そのガスタービンだがやはり燃費が悪い。悪すぎる。
そもそもガスタービンは理想回転数での燃費は良いのだが、低回転を持続させると馬鹿みたいに燃料を食う。燃費は回転数に関係せずってか?
そのため、高速航行の時は良いのだが巡航の時にもバカスカ燃料を食うので全く持って困ってしまう。
解決策は、他の機関、ヤンマーや蒸気タービンと組み合わせるか、巡航用と高速用の異型ガスタービンの組み合わせ、同型での半舷運転など、巡航時と高速時の二つの状態を想定して機関や減速機を揃えないといけない。
前世でも初期のガスタービン艦ではガス欠で漂流したという笑えない事件も発生している。わかっている事には備える必要がある。
昭和十四(1935)年十月、演習中の艦隊が気象予測をあやまり台風に突っ込んでしまう。その結果、駆逐艦二隻が大破し、巡洋艦にも被害が出た、転覆こそしなかったものの、夕張型を拡大した古鷹型巡洋艦には重大な復元性の問題があることが判明して早急な対策が必要になっているようだ。そういえば、ワシントン条約がないためか極端な武装強化が行われず、これまでトップヘビーが問題になっていなかったため、忘れ去っていたのだが、当然、機関換装で重心が上昇している仁淀も問題視され、二番砲塔が撤去される事態になっている。
こうした追加の改装も行われて昭和十五(1936)年五月にようやく仁淀が完成したわけだが、八月には早くもガス欠事件を起こして漂流する事態となった。
幸い、試験中だったので随伴艦がおり事なきを得たが、ガスタービンの運用にはちゃんと専門的な教育が必要になることを痛感した。
ガス欠事件を起こしはしたものの、やはりその性能自体は否定できず、半舷運転などの試験をやった結果、巡航用と高速用の二種類のガスタービンを用意すればオールガスタービンでも技術的な問題はない事が十月には報告書としてとりまとめられている。これまで地上試験で基本的なデータがあったからこその早さではあるが、それで本当にいいのだろうか?
そんな俺の心配をよそに話はどんどん進み、仁淀の改装中に分かっていた「このサイズなら仏独並の大型駆逐艦つくれば載るんじゃね?」という可能性から、これまでよりも大型の駆逐艦が設計されることになった。
されることになったというか、昔試案が作られていた小型巡洋艦の設計を基に設計図を引き直した特型駆逐艦というのが海軍では話題になっている。
折も折、英国やドイツから入ってきた溶接技術を基に瀬戸内の造船所では全溶接、しかもブロック工法による建造工法が内航船で試されているという。どうやら前世よりも数年早くドイツで溶接用張力鋼が実用化しているようで、日本にもその技術が張ってきているらしい。
それってもしかして、ヒトラーの仕業か?確かヒトラーってずいぶん早くから鉄鋼業界と関係あるんだったよな・・・
ブロック工法と溶接によって短期間に安く、しかも多量の駆逐艦が建造可能だと海軍が狂喜している。
でも、お前ら待て。軍縮条約もないが戦争もしていないんだから予算がないぞ?
どうやら、特型駆逐艦は水雷戦隊の夕張型巡洋艦を置き換える嚮導駆逐艦を兼ねるらしい。
余った夕張型は改修の上でロシア公国へ売ればいい?まあ、確かに、海軍力整備に着手したロシア公国には土佐型戦艦を供与したから、周囲を固める艦艇群が必要だよな。
特型駆逐艦は昭和十七(1938)年度予算で認められるという事なので、完成は早くても昭和二十(1941)年になるだろう。という事で、レーダー装備を絶対条件とした。軽量化のために砲も5吋から4吋になるらしい。しかも、嚮導駆逐艦だけでなく、新たに空母随伴艦の役割も加わり、それはもう、大戦時の巡洋艦に近い艦になってしまっている。
特型駆逐艦
排水量 4000t
全長 130m
幅 13.6m
主機 ガスタービン
出力 75000馬力
速力 35ノット
武装 嚮導型4吋連装砲3基、21吋4連装魚雷発射管2基、対潜迫撃砲他
直衛型4吋連装砲4基、21吋5連装魚雷発射管1基、対潜迫撃砲他
嚮導型は島風型駆逐艦と呼ばれ、直衛型は秋月型と呼ばれることになる。4吋連装砲は前世の九八式高角砲をモデルにした両用砲で、38式4吋連装砲として採用されている。英国で設計された砲身を導入したものだが、これは日英露の標準駆逐艦砲となっていく砲である。




