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第三十八話  油田の発見と国内情勢

 昭和十(1931)年、何をどう間違ったのか昨年から開始された石油探索で早くも油田の可能性ありとされる場所が見つかった。当然ながらそれはかの大慶油田だ。

 硫黄分が多くかなりの重質油らしいという。その点も前世と同じ。特に変化はないようだ。


 ただ、埋蔵量さえあれば、米国の技術でどうにかなるらしい。まあ、埋蔵量はあるから心配ない。


 あと、ガス田もあるらしい。米国も大陸権益のためにわざわざ本国から運んでいたものがこちらで手に入るとなれば喜ぶことだろう。余計に引き留めを強化しなくては・・・



 油田の商業採掘には時間を要する。これから埋蔵量の確認をして油質の詳細を見て設備の検討に入るとなると早くて五年は先のことらしい。

 幾らか資源はあるが、大規模な油田があるならロシアも安泰、日本にも悪いことではない。

 そんなことがあった五月、ようやくある事業が動き出した。


「では、ロシア政府との正式な合意を得た後、土佐型の売却を開始します」


 とうとう、土佐型戦艦の売却話がまとまった。日本は保有戦艦がこれで四隻減ることになる。もちろん、補充の手立てを考えていないではない。

 米国のコロラド級、英国のネルソン級同等の14吋砲戦艦の計画はすでに出来上がっている。

ただ、建造開始は早くても来年以降、就役は昭和十六(1937)年以降の話になる。当然、それを見据えて設計されてはいるのだが、やはり、ここ最近の飛行機や潜水艦の発展スピードを見ると前世の悪夢がよぎってしまう。


 そうそう、悪夢といえば、自ら悪夢を呼び込むような計画を打診した。航空機用ガスタービンの開発である。

 ただ、技術者たちは何を間違ったのか、ジェットエンジンではなくターボプロップ開発を始めるらしい。ちょっと斜め上へ向かっている気がするが敢えて指摘しないでおく。ターボプロップならまだ想定内に収まるだろう。十年後にマスタングクラスの戦闘機が出来る事はあるかもしれんが、Me262やP80が出来てしまうことを考えれば・・・


 それに合わせてレーダー開発もすでに始まっている。空港にあるレーダーやら旧式護衛艦のレーダーなど、イラストを示してイメージを伝え、当然ながら波形ではなくちゃんと一目でわかる映像式の画面を要求した。まあ、画面の方は少々難航しているが仕方がない。それでも前世に比べたら技術的にもマシになっているのだからあまり無理も言えない。俺自身には開発チートはないからな。


 そうだな、後はヤンマーの話か。

 ヤンマーの創業者が同年代と知ったのはいつのころだったか。最近ではそれなりに親しい仲である。特に嫁同士が・・・


 そんなこともあって農業機械の発達も早い。英国からタイヤ技術を持ち帰った独立系のメーカーやら財閥系メーカーがいくつも乱立し、トラックやバス用タイヤの生産に余念がない。その多くは今のところロシアへの輸出だが、そろそろ国内需要も増えてきている。

 そして、農業機械用タイヤも依頼している。


「今の段階ですんなり機械化可能なのは当初から大規模経営を前提にした開拓が行われた北海道だけです」


 機械振興に関する会議での一コマだ。

 現段階でロシア向け農業機械が導入可能なのは北海道だけ。本州には小型の機械が普及してきてはいるが、それでは正直満州の農産物に太刀打ちできない。


「関東や東海でも導入できるようにすべきでしょう。そのための区画整理や土地改良にも余剰が出てきた公共投資を投入すべきかと」


 そのような議論が盛んだ。


「区画整理となると北海道の開拓と違ってさまざまに問題がある。特に昔からの小作制度や水利権などの解決しなければならない問題も多い」


 議論百出、なかなか簡単には進まない。


「では、農業に大ナタを振るい、小作農の開放ということになるでしょうか、一部にそのような議論があるのも確かです」


 そして、一部の人たちが俺に注目する。そう、前世持ちと知る人々だ。前世の歴史について彼らには直接、間接に話が行われているから今後の農業についても少なからず知っている。そして、その意見を求められているということだろう。詳しい話は出来ないが・・・


「少し良いだろうか」


 俺は威厳たっぷりに話し出す。元老たちがいた時代には肩身が狭かったが世代交代した今は演技が必要になってしまった。


「区画整理が必要。それはヤンマーの機械を見ればわかる。大型の機械を牛や人が耕していたままの田畑に放り込んでも手間がかかるだけだ」


「そして、もう一つ考えてもらいたいが、小作人にあのような機械を買えるのだろうか?家が建つような機械を買い、今の機械とは比較にならない燃料を使う。そんなことが可能か?そして、耕すだけならすべての小作人が機械を持つ必要もない」


「よく考えてほしい。すでに北陸の農村で起きているが、人が居なくなり田畑が荒れる。あまりに高い機械を使おうとすれば必ずそれに耐えきれずに離農が増えるのではなかろうか?今の小作人に土地を与え機械を与えても、彼らをさらに苦しめるだけにしかならんのではないか?」


 前世、農地解放を評価する歴史教科書ばかりに出会ったが、「元百姓」の非農家出身者としてその評価にはどうしても疑問がある。機械一台で車が買える。そんな農機具を作物に合わせて何台も買いそろえるなど正気の沙汰ではない。

 前世の我が家が農業を辞めたのも、その機械の負担に耐えかねてだ。農業をやっていた祖父母の時代の遺産である機械が壊れた時、自動車に匹敵する農機具を買い替えるなど、採算の見えない零細な我が家には無理だった。

 そんな前世がよぎる。農地解放してもいずれ我が家のような中小零細が続出する時代が来る。そのころになって農業改革の見直しだと言ってもすでに遅いのではないか?


「小作人を苦しめるくらいならば、小作人を土地から解放して自由にやってもらえばいい。それでも土がいじりたいというなら農業団体で働けばいいし、自ら農業団体を起業してもいいだろう。農業のあり方を根本から変えることを望む」


 俺に方向性を示すことは出来ないが、将来を考えるとそう警鐘を鳴らす必要を感じた。


 農業改革は長い試行錯誤があった。なにせ、作物の品種改良や肥料の発展、機械の進化等が加速するこの時代、施策が数年で陳腐化してしまうなどザラだった。それでも何とか基本的なことはでき上がろうとしていた。

 土地の所有や作物の生産、管理を担う企業、主に機械作業を行う企業、双方を行う総合企業、そうした組織が各地で出来上がり始めていた。


 全国組織の団体を作ったのではない。生産や管理、出荷もそのほとんどを個々の企業が行う形になっている。ただ、工業と違い、あまり広域化すると失敗している。これは前世、親から聞いた話と合致する。なんでも、水系や気候、土質が異なる田畑や山では育てる品種や作物が変わるからあまり広域化したり利益に目がくらんで地域性を考慮せず単一品種に特化した農協がそんな事態を引き起こしていたと。

どうやら前世の我が家もその被害者らしいが・・・



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