外伝8 その後の日本で使われている小銃
周りが皆緊張していいる。俺も外面だけは緊張した振りをしているが、実は全くそんな事は無い。
「それでは、これより始める」
指導者の声に並んだ俺たちはこれまで練習してきたとおりの動作を行うのだが、緊張のあまりうまく行かない奴もいる。
そんな姿を横目に俺だけはスムーズに言われたことを終えている。
「岩崎、お前はえらく手馴れているな」
しまった。目を付けられた。
「おもちゃで慣れているだけです」
そう返す俺に対し、どこか納得した顔をする指導者。確かに、幾人か俺の様にスムーズな動作だった者も居る。
「よし、では構え」
その合図とともに手に持った銃の装填桿を引いて構える。
「単発、用意」
という声で親指でセレクターをセーフティから射撃位置へ。
「撃て」
パパパパパパ
「射撃止め!」
どうやら連射位置にしてしまったのが居るらしい。セレクターをセーフティにして構えを解く。
現代の銃は反動もかなり抑制されている。昔の銃だとこうはいかなかっただろう。
今俺が手にしているのはまるで玩具みたいな質感の代物だが、まぎれもない本物だ。重量も3kg程度しかない。
日本とロシアが制式化している11式小銃だ。
元をたどると俺の発案で明治に作られた自動銃までさかのぼることになるが、あの時の使用弾は6.5粍有坂弾だった。
世界大戦まで使用され、そこでの塹壕戦からサブマシンガンの有効性が見いだされ、本来警備隊の銃であったモノを連発化して陸軍が使用したのだが、射程が短かった。
近接銃と同時に試作された小銃も、弾は有坂弾を使うのに、射程が短いものだったため、結局、大戦での採用は行われていない。
そして、俺が参加した皇帝一家救出作戦では赤軍や白軍の一部が使っていたフェドロフ自動小銃を手に入れたのだが、やはりこれも射程が短い代物だった。
そもそも、有坂弾自体は長銃身の三八式歩兵銃に合わせて作られた弾であり、銃身長800mmに最適化したものになっている。
その銃弾を銃身長520mmのフェドロフ銃で使用しても、当然ながら意味が無い。
銃弾の装薬というのは、ある程度想定される銃身長において、銃口まで燃焼ガスを持続して膨張させるように出来ているので、300mmも短くなれば、余計なガスはただ炎として銃口から排出されてしまう。当然、本来銃弾を押し出すことに使われるはずのエネルギーも有効に使われずに、銃口外の燃焼に消費されることになる。
銃身長を短くするなら、短い銃身で万遍なくエネルギーを解放できる燃焼速度を持った装薬へと成分を変更する必要があった。
と、偉そうにっているが、俺自身、当時はそんなことを知らず、火力重視のドクトリンからとにかく量産、備蓄を優先する手前、新弾薬の開発も遅々として進んではいなかった。
対ソ戦争において使用された小銃は、三八式を自動銃にして多少銃身が短くなった程度のモノにすぎず、あまり大きなデメリットも持ち合わせてはいなかった。
この戦争にロシアが投入したのが、当時ロシアで標準となっていた7.62×54の薬莢を短縮した短小弾を用いたフェドロフの後継銃だった。
確かに効果は大きかった。日本軍でも一時的にそれを採用した程だが、なにせ、連射では銃が暴れる上に命中精度がすこぶる悪かったらしい。もう、この頃には俺は暗殺されていたので事情はよく分からない。
ロシア側は気にしていなかったが、日本ではこれが大きな問題となった。
そこで、かねてより研究が行われていた有坂弾用の短銃身装薬を用いた新弾薬の開発とそれを用いた新式銃の開発が持ち上がった。
ここで、ロシアの自動小銃を参考に、連射が可能で、銃を制御出来て命中精度も良い銃を作るという方向へと向かった。
そのため、短小弾同等の弾の方が都合が良いという話になり、有坂弾ではなく、新弾薬の開発が行われ、6.5×43という、いま使われている弾が開発された。
この弾には、正式名だけでなく、愛称として6.5ミリ南部弾という呼び名が付けられている。
南部さん自体は開発に関わっていないが、装薬研究や基礎となる銃の開発を行ってきた功績からそう名付けられている。
こうして完成したのが52式小銃で、ロシアの技術者も多く参加していたからか、どこかしら1週目のAKを思わせる。
ただ、弾倉は弾が異なり、薬莢にテーパーがかかっていないのでAKではなく、M16に近い形状をしており、20発弾倉などは湾曲なしの長方形だ。
長らく52式が使われていたが、多少の改良ではそもそも、重量4.2kgの銃を軽量化するのは限界がある。
そのため、新たに軽量設計で新しい考え方や装備品に対応した銃が開発され、2011年に制式化されることになった。
弾倉は52式のモノがそのまま使えて、伸縮式でなおかつ折りたためる樹脂製銃床になっている。
と、まあ、そんなわけだ。
何で俺が銃を撃ってるかって?それは、高校にある予備兵曹課程の講習に参加しているからだ。
この世界の日本では軍がそのまま存続しているため徴兵制が存在している。
と言っても、完全徴兵制ではなく、一般人には徴兵義務はない。皇族が兵役の責務を果たしているのだから、貴族や富裕層が国防の任を負うのは当たり前という、上総宮時代に俺が言い放った一言が今も生きているという。
あれ、単に自分の軍歴を正当化するために言ったに過ぎないんだけどね?
そのため、徴兵法は幾度もの改正を経て、平時の一般徴兵は停止するが、一定以上の所得や政治的地位にある家系の者には徴兵ないしは予備役講習が義務となっている。
俺の場合、実家が皇室農園の維持管理を行う関係で「政治的地位」にあるとされ、こうして予備役講習に参加している。
皇室農園自体が近衛の警備下にあるので、近衛の兵舎や訓練設備も備えている。そのため、俺の学校にはこうして予備役課程が併設されている訳だ。
兵曹課程を履修しておけば、進学した時の士官課程を受けなくても良いし、そのまま参加しても、実技は免除となる特典付き。
「よし、訓練再開、構え!」
さっきミスった奴の説教が終わったらしい。




