表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/52

5話 君の得物は?

訂正

2話少女悶絶でミコトの脳内セリフに出てきた幼馴染み『ユズキ』を『ユヅキ』に訂正いたします。

誠に申し訳ございませんでした。


 

「ヨシッ!ミコト君ね。早速冒険に行きましょ。人の少ない今なら周りを気にせず狩り放題よ!」


 ミコトの手を取ったままダンジョンゲート広場をビシッ!と指差すソフィア。

 ソロ歴が長いミコトだったが、知り合ったばかりの相手と相談もなしにダンジョンに入るのは無謀だと弁えていた。

 慌てて制止する。


「ちょっと待ってください!ダンジョンアタックって閑散期の遊園地に遊びに行くノリでやるもんじゃないです!作戦会議をしてからにしましょう!仲間の手の内を知らないで戦うのは危険すぎます!」


 ミコトの例えは説得力があったのか、「それもそうね。命がけのアトラクションだし。あ、でも遊園地デートだって命がけよ」といらぬ補足も加えて了承した。


「先に連絡先の交換をしておきましょうか。スマホの電話番号とメールアドレスと“リンクス”のIDもね」


 リンクスとは簡単なメッセージのやり取りができる世界最大手のソーシャルネットワーキングサービスである。


「すみません、スマホは部屋に置いてきました」


(置いてきたっていうか、正直充電してたかも怪しいけど)


「え?置いてきたって何で?エクスデバイスだけじゃなくて小回りのきく端末が一台あった方が便利じゃない。ちょっとした連絡とかするならそっちの方が楽でしょ」


 ソフィアが世間一般において常識(・・)的な発言をする。

 しかし、それを言った当の本人が直後にしまったと手のひらで口元を覆い、ばつの悪そうな表情になった。


「俺、ボッチなんでそもそも連絡をとる相手がいないんですよ」

「おおう、そうだったわね……。ごめんなさい……」


 二人とも通夜の夜を迎えた時のような面持ちで顔を見合せた。

 耳に痛い沈黙が流れる。

 その間を縫うように体の芯から震えるほどの冷たい木枯らしが駆け抜けた。


「あー、もう!辛気くさい話はやめましょ!人間スマホがなくったってブリバリ生きていけるわよ!文明の利器が何よ!人の時間を無意味に搾取するだけじゃないあんなの!機械の奴隷なんてごめんだわ!アウストラロピテクスの方がまだ有意義な時間の使い方をしていたわよ!恋愛とかエッチとかエッチとか子育てとか!エッチとか!エッチとか!あとエッチとか!原始人舐めんな!さ、気を取り直してステータスの交換でもしましょうか!ウェーイ!ウェイ!ウェーイ!」


 恥ずかしい単語の連呼と薄ら寒い掛け声で場の空気を盛り上げようとするソフィア。

 傍目にも無理をしている笑顔だった。

 幸い大人の気遣いを無碍にしないだけの度量がミコトにはあった。

(この人どれだけエ、エッチが好きなんだ……)

 そんなことを思いながら曖昧な笑みを浮かべ、ソフィアとの会話を繋ぐ。


「やり方は大丈夫ですか?」

「エッチの?」

「違います!」

「ゴムの付け方とか?んー、ごめんね。今のキミじゃまだ濡れないかなー」

「エッチから離れてください!!」


 本日二度目の顔面大発火を起こして真面目に叱ると、さしものソフィアも「ゴメンゴメン」と謝罪しながら表情を心もち引き締めた。


「エクスデバイスの操作はバッチリよ。小狐丸(コギツネマル)、ミコっちゃんのデバイスにあたしのステータス送っといて」

『御意であります!』 


 ソフィアのエクスデバイスから少女とも声変わりのしていない少年ともとれる元気な声で応答があった。

 ミコトのデバイスと異なり声質の感情表現が豊かである。


「それ新型のコピーデバイスですか?」


 ソフィアの腕に指先を向けて言う。

 彼女のエクスデバイスはシンプルなデザインのミコトのものより洗練された美しさがあった。

 真新しさによる補正も含まれているだろうが。


「うん、最新モデルよ。家電屋の店員さんにお勧めされたのを買っちゃった。可愛いでしょ?オリジナルデバイスのAI人格は人間を相手にしてるのと変わらないっていうけど、こっちだって捨てたもんじゃないわよ。知ってる?この小狐丸ちゃんの声ね、歌って踊れて戦える人気アニメ声優冒険者グラドルのカナメ・ミライがあててるのよ」

(何だその属性てんこ盛りの冒険者?アニメ声優?グラドル?は)


「知りません」

 憮然として答えるミコト。デバイス音声の良し悪しは性能に含んでよいものか懐疑的である。

 ハード面は最初の発見から500年ろくろく進歩していないエクスデバイスだ。どうでもよいところに金をかけて消費者を欺いているだけではないかと昨今の電子機器業界に一抹の不安を抱いた。


捌拾(ハチジュッ)式数打(シキカズウチ)小狐丸(コギツネマル)装者(ユーザー)ソフィア・カンザキよりステータスデータを受領』

 くだらないやりとりをしている間にソフィアからステータスが送られてくる。


 ===============================


 レベル:1

 クラス:スカウト

 保有生体エネルギー:霊体(0/2500) デバイス保管カセット×2(0/1000)(0/1000)

 保有魔力:(90/90)

 筋力:40

 体力:60

 耐性:50

 理力:100

 敏捷:80


 スキル:気配探知Lv0・開錠Lv0・隠密Lv0・狙撃Lv0・土魔法Lv0・火魔法Lv0


 霊体拡張に必要な生体エネルギー値:100


 ===============================


(目を瞠るべきは霊格か。初期値で2500ってそうそういないぞ。ステータスも高水準だし、スキルの数だって多い。Lv0なのは知識は豊富だけど実戦経験には乏しいってことか。この人性格はアレだけど頭がいいな)


『装者殿!ミコっちゃんからデータを受信したであります!』


 ミコトもまた送信を済ませていた。


(ミコっちゃんて……この主従)


 座った目でソフィアのエクスデバイスを睨むが、プログラムされた以上のことはしない機械である。ミコトの無言の抗議には黙して取り合わなかった。


「ご苦労様。どれどれ、物理魔法の両刀で敵の攻撃は避けるよりガードするタイプってとこかしらね」


『うわ……キミの能力、低すぎ……?』と言われることを危惧していたが、ソフィアの感想は冷静だった。


「回避主体のあたしがかき回して削りつつ、隙を見てキミがトドメを刺すっていうのが基本的な戦術になるかしら。あるいはキミが盾役をしながらあたしが狙いすました攻撃で急所をつくか。まー実戦じゃ机上で考えた通りには運ばないでしょうけど」


 教本に忠実な考え方だ。

 ミコトも同意して口を開いた。


「そうですね、数値を見た上ではそれが最善かと思います。どちらの戦い方でいくかはケースバイケース。モンスターの動きを体で理解しておいてからでなくては呼吸を合わせるのは難しい。お互いにパーティーでの戦闘経験も浅い。最初は連携なんてうまくいかないと思います」

「結論、数をこなせってことね。そういえばミコト君武器は何を使うの?」


 聞かれてミコトはエクスデバイスを操作し、アイテムボックスから武器を出した。


「金棒と脇差です。柄に絶縁・耐熱処理を施していて強敵には電流をエンチャントして攻撃力を補っています」


 金棒はヤマトにおける地獄の獄卒、“赤鬼”、“青鬼”が担いでいそうな、丸くて鈍い無数のトゲがついた黒鉄の鈍器だった。

 脇差しは太刀よりも短めの刀。銘は“姉妹刀(たがね)

 なんの変哲もない漆塗りの鞘に収められた無骨な一振りである。


「メインに打撃、サイドアームに斬撃ってわけね。あたしはナイフとクロスボウよ。点の攻撃になるから向いているモンスターの棲み分けはできているかな。しっかし扱える武器が中世と変わらないってのは酷いわよねえ。銃を使わせなさいよ、銃を。ダイナマイトでもいいわ。下級ダンジョンにいる大概のモンスターはアサルトライフルとかロケットランチャーとかでなんとかなるんじゃないの?」


 科学技術で魔法を社会の隅に追いやった現代。

 ソフィアの疑問はもっともなことだった。


「なるでしょうけど銃刀法とか破防法といった法律の兼ね合いで禁止されていますから。中世の武器は冒険者が携行を許されるギリギリのラインなんです」

「魔法を使った仕掛け武器――魔具はありなんでしょ?そっちの方が殺傷性やばくない?」

「魔法は使い手がさほど多くありませんし、威力が個人個人の才能によって大きく左右されるので許容されてるんでしょうね。銃や爆弾が誰にでも扱えて一定の成果を出す工業製品なら魔法はムラっけのある職人技です。魔具は威力こそ折り紙つきですが、構造が複雑なので故障しやすいです。魔力が切れたら仕掛けで重くなった分、普通の武器より取り回しで劣りますし」

「使える回数に限りあれど必殺の武器って感じね。魔剣とか魔弓とかロマン溢れるわ。まるでアニメの世界みたい。あたしは火と土の魔法に適性があるからどんな魔具が合うかしらね。楽しみだわ」


 どんな魔具を想像したのか。浮かれて怪しげな笑みを見せるソフィア。


「あたしは魔法少女。魔法少女ソフィア☆勇気の魔法で敵はみんなネギトロにしちゃうわよっ☆☆♪」なんて宣いながら社会人経験のある女性が演じるには些か物議をかもしそうな愛らしいポーズをとる。

 ミコトはその様子を見て苦笑いしながら説明を続ける。


「楽しみに水を差すようで恐縮ですけど、魔具は下手すると使うたびに赤字になりかねません。魔法の使い手が少ないという事は魔具を作る職人も少ないという事。工場のラインで大量生産というわけにはいきません。ダンジョンでしか採れない素材でできたオーダーメイドの特注品になるので必然的に値段も張ります。メンテナンス費も高いらしいです。あとこれが肝心ですが、魔具を扱うには独自の免許が要ります。試験が難関な上、免許をとっても更新するたび結構なお金がかかるので俺達が手にできるようになるのは当分先かと」

(実は免許は持ってるけど()のではないしな。いつかはちゃんとした実力で手に入れたい)


「えー、夢も魔法もあったもんじゃない。色々と世知辛いわね……。免許の方は役人が天下りで利権を貪ろうって魂胆が見え透いてるし。まあいいわ。魔具を入手するにはそれに見合う力と財力が必要になるわけか。コネもいるかな。職人に渡りがつけられるよう情報収集もしておかないと。その辺の交渉は営業経験のあるおねーさんにどーんと任せなさい」

「期待してます」

「話が脱線しちゃったから戻すわね。購買部で回復アイテムは一通り揃えてきたわ――――」


 その後一通り段取りを済ませた二人はダンジョンに挑む運びとなった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ