47話 追憶の巫女 後編1
祝賀会は立食パーティーの形式を取っていた。
ホストの挨拶の口上もそこそこに乾杯となり、会場は歓談で賑やかな空気を醸し出している。
出席者の肩書は企業の重役、個人投資家、政治家、幕府官僚、芸能人、ドラゴンイーター級以上のプロ冒険者――等々と様々。親族も加えて大人数に達している。
「これはイスルギ工業の会長。近頃ずいぶんと景気がよろしいようで。ダンジョン事業部への多額の設備投資に加え、国内外問わず優秀な研究者を次々と技術顧問に招聘してらっしゃるそうではありませんか。いやあ実に羨ましい限り。予算が国民の血税である以上、現場の技術者に思う存分研究をさせられぬ幕府としてはあやかりたいものですなあ」
「いやなに、そろそろ後進に道を譲るべき時と見定めましてな。耄碌する前に会社の歩むべき未来を示しておかねばと愚考した次第です。虎の子の内部留保を投じて台所事情は火の車。苦しくありますが、老骨に鞭打って励んでおります」
「ほう、内部留保を?しかしダンジョン関連の事業とはいささか博打がすぎませんかな?いや、失敬、辣腕で知られる会長のこと、急な経営方針の転換をしても投資額を回収して余りあるだけの勝算がおありなのでしょう。その鋭い戦略眼に培われた経営の秘訣、差し障りなければ是非ともお聞かせ願いたいものです」
「ははは、それは企業秘密というやつでして、相済みませんが発言は控えさせていただきましょう。ここのところ社屋の近所を怪しげな輩がうろついておるようでしてな。お恥ずかしながら秘書から『会長はおしゃべりですから些細な情報でも決して漏らさないでください』と毎日のようにお小言をもらっておるのです。いくつ歳をとっても諫言は耳に痛いものですなあ」
「…………はっはっはっ!頼もしい秘書ではありませんか!社運を賭けた一大プロジェクトならば警戒してし過ぎることはありますまい。知恵という財産は盗み出すのは易く、取り戻すは難しですからな」
(社屋の警備が厳しかったそうだからな、気づいていたか。貴様が贅を貪りながらも株主への還元を怠っていないのは知っている。派手に金をばらまいていて内部留保など残るものか。莫大な研究資金の出所はどこだ?後ろ盾など急に現れるはずもない。最も可能性が高いのは海外だが――だとしたら許さんぞ、売国奴め)
(幕府の犬が。朝廷傘下の企業を嗅ぎまわっておるのはとうに把握しておるわ。のこのこと現れた今宵こそ好機、こちらが尻尾を掴んでくれるわ)
主催は朝廷側なのだが身内のみの集まりではなく、現政権を担う旧武士階級の面々も招かれており、早くも両勢力の間で腹の探り合いが始まっている。
(俺が生まれるずっと昔からやりあってきてるんだよな。飽きないのかな?)
狐と狸の化かし合いじみた光景を横目にミコトはグラス片手にオレンジジュースをちびちびと飲んでいた。
せっかく用意された美酒も美食もあれでは味もわからないだろうに――と子供らしい的外れな心配をしながら。
(飽きてないのはうちもか)
両親も既に幕府のお偉方とやりあっている。
ミコトもあと数年もすれば巻き込まれるのは間違いないだろう。
巫女は倒幕のキーマンなのだ。争いの渦中はミコトへと移る可能性は十分ある。
なんとも気の滅入る話であった。
「お父様が羽を伸ばしてきなさいなんて言うわけだよ」
かくなる上はやけ食いでもしてストレスを発散する他に無かろう。
「ご飯にしようかユヅキ」
「はい」
会場ホール内には小さなテーブルがニ十数箇所設置されている。
それらの小テーブルには軽くつまめる程度のものしか並んでいない。
時間が経っても美味しく頂けるドライフルーツやナッツ、サラミ、チーズ等の乾き物が中心だ。
これらは会話に彩りを添えることはあれど、若い胃袋を満たすには不足も甚だしい。
となれば狙うのはメインのテーブルとなる。
そちらはシェフが何人も立っており、出来立ての総菜を提供してくれているようだ。
「美味しそうな料理が所狭しと並んでいるのに全然人いないな。誰も彼も食べるよりおしゃべりで口を動かすのに夢中みたいだ」
仇敵との舌戦に食事どころではない者。
有力者に取り入ろうと媚びを売るのに必死な者。
そして彼ら以外の大半は望めばいつでもいくらでも美食を堪能できる富裕層である。料理への興味自体薄いのだろう。
ユヅキとひっそりディナービュッフェを楽しみたいミコトにとっては好都合な状況である。
(家じゃヤマト料理しか出ないから他の国の料理が食べたいな。未知の味との出会い。その組み合わせは無限大。あまり健啖だとはしたないと思われるから食べ過ぎは禁止。よく吟味しよう)
さあどこから攻め入ろうか。
食の軍師ミコトの名采配をとくとご覧あれい。
――という気分に浸れたのも束の間。
「こんばんは。いい夜だね」
スマートな長身の青年が立ちはだかり、ミコトの行く手を阻んだ。
さぞかし異性からモテるであろうフルオーダーのダブルスーツが良く似合う甘いマスクの御曹司である。
ミコトは左右を見回して人違いでないことを確認してから青年を見上げた。
「こんばんは。えっと、何かご用ですか?」
人見知りするミコトとて最低限人脈は頭に叩き込んであった。
同じ派閥に属する企業の社長の次男坊だと記憶している。
年の離れた大学生なので特に親しい間柄ではない。口をきくのもこれが初めてだ。
彼がミコトは元は男なのを知らないという点も補足しておこう。
「君と仲良くなりたくてね。迷惑だったかな?」
「いえ、迷惑だなんてことはないですけど」
この時はニ、三社交辞令を交わして終わりだと思っていた。
次に青年が発したセリフで警戒の度合いを一気に引き上げざるを得なくなった。
「ありがとう。それにしても今夜の君は一段と素敵だね。赤いドレスが良く似合っているよ。まるで童話の世界のお姫様だ」
「過分なお褒めに与り光栄です」
歯の浮くようなお世辞に対し機械的にお礼を返しながら、青年が近づいてきた理由に勘づく。
派閥内で顔が利くヒラガ家とのコネクションを得るメリットは改めて論ずるまでもないとして、ミコトは自意識過剰ではなく単なる事実として自分を美少女だと自覚している。
ミコト本人ですら自分のドレス姿に見惚れてしまっていたのだ。他の男にとってはそうではないと何故言えるだろう。
とすれば狙いは明白。
(これってまさか俺、女の子として見られてるんじゃ)
今日より以前のミコトは若い男たちにとって子どもだった。
どれほど美しかろうと性を意識させる対象ではなかった。
ところが今はどうだろう?
会場入りしてから今まで心当たりはあったはずだ。
(思い返してみれば体のあちこちを見られていたような気が)
最近、変身後の体型が徐々に大人の女性へと成長してきているのに気づいていた。
膨らみかけの胸に小ぶりだが優美なラインを描くお尻。
二次性徴を迎えたばかりの少女の瑞々しい肢体は男の目を引くものだと知っている。
そして世の男性の大半が程度の差こそあれロリコンだということも知っている。
なまじ自分の性別を男と自認しているだけに男の本性が理解できなくもないのが不幸だった。
「えぇ……」
ミコトは心の中で青ざめた。
是非とも勘違いであって欲しいが、母からそろそろ必要になるでしょうと、男性に口説かれた際のあしらい方をレクチャーされている。
万事に有能な母が見立て違いをやらかすとは到底思えなかった。
「僕はミコトちゃん、君と親密な関係を築きたいんだ。長期休暇のスケジュールは空いているかな?君さえよければ海外旅行に招待させてほしい。海辺の景色が素晴らしい別荘があるんだ。きっと気に入ってもらえると思うよ」
戸惑うミコトの態度に構わず、息をするようにすらすらと誘い文句が出てくる。
相当なプレイボーイであるのが彼の人となりを知らずとも容易にうかがい知れた。
「か、かいがいりょこう……?」
「そうさ、必ず君を満足させると約束するよ」
ミコトの脳裏に青年と砂浜を歩く光景が描かれる。
白いワンピースを着て、揃いのリボンの付いた帽子をかぶった少女が潮風を受けて佇む姿が思い浮かんだ。
(それって客観的に見れば男女のお泊りであるわけで、完全にアウトじゃ……)
ミコトに縁談の話が持ち込まれたことはない。
息子の結婚相手などキョウカが進んで仕切りそうなものだが、両親は政略ではなく恋愛結婚なのだという。
その負い目からか、ミコトの意思を無視して強引に婚約者をあてがおうとは一切してこなかった。
相手を選ぶ権利が尊重されているのなら、男と結婚など断固として拒否する所存である。
たとえ女の子になったまま戻れなくなったとしてもだ。
(招待に応じたら対外的に交際しているって周知するも同然じゃないか。そんなの冗談じゃないぞ!)
首を振ってたわけた妄想を振り払う。
「あの、せっかくお誘いいただいのですが休暇は家の行事と稽古で忙しくて――」
当たり障りのないお断りをやんわりと入れようとしたところで、男がもう一人割り込んだ。
「抜け駆けとはひどいじゃないか。彼女は前からオレが目を付けていたんだよ。無断で攫って行くような真似はいただけないな」
闖入者は最初に声をかけてきた男もそうだが、乙女ゲーから実体化させて連れて来たのかと疑うほど背が高くハンサムな青年だった。
「へえ、それは知らなかったな。もっともお詫びするつもりはないけれどね」
「ああ、詫びなんて求めてはいない。だが提案くらいは聞いてもらいたいな。彼女と共有できる時間は有限なんだ。後腐れのないようフェアにいくつもりはないか?」
「協定を結びたいと?そんなものミコトちゃんには関わりの無い話だよ。誰とどうしたいかは彼女自身が決める。僕はほんのわずかでも彼女に微笑んでもらえるよう最大限努力しているだけさ。あなたがその障害となるつもりなら容赦はしないが?」
「そうか、ならば後悔しないよう覚悟しておくがいい。オレも本気を出させてもらおう」
どちらも選ぶ気が毛筋ほども無い少女の前で無益な鞘当てが始まった。
ルックス、頭脳、運動能力、どれをとっても申し分のないスペックを誇る男二人がどうして女の体を持つ男を取り合わなくてはならないのか。
(俺は悪夢でも見ているんだろうか)
ちなみに青年二人はこの会場にいるお嬢様方に絶大な支持がある。
彼女らから見ればミコトは美しさを鼻にかけて王子様を二人も独占する高慢な姫だ。
おかげで遠巻きに見つめるお嬢様方からの棘のような眼光が、チクチクと肌に突き刺さり、ありもしないはずの痛みを訴えてくる。
視線だけで済むならまだいいが、焼きもちを焼かれた挙句に的外れな嫌味を受けるのはひたすらに遠慮したい。
「ま、ご覧になりまして?」
「ええ、どのようなやりとりが交わされているかまでは聞き取れませんが、殿方同士を言葉巧みに操り争わせ、その様を楽しんでいるのでしょうね。舞台のヒロイン気取りで。取り合いにもならない私たちへのあてつけよ」
「間違いないわ。顔に似合わず悪趣味な娘ね。増長もここまでにしておくべきではないかしら?お付きのコウガ者には関わるなとはいえ目に余りますもの」
「今まで手心を加えていたけれど、そろそろ分からせてあげる頃合いね」
そんな伏魔殿に似合いの囁き声が耳に届き、ミコトは内心で震え上がった。
(あのお姉さんたち怖っ!)
男から迫られ、女の子からは嫉妬される最悪の事態。
ここははっきりと気持ちを伝えた方が良いという結論に達するのにさしたる時間は要しなかった。
最大の懸念は相手のペースに飲まれないかという点だが、やってみて損はあるまい。
ミコトは眦を決して口を開く。
「言い争いはやめて私の話を聞いてもらえませんか?」
仲裁の言葉がもたらす効果は絶大だった。
二人の目が寸毫違わぬタイミングでこちらを向く。
肝心の少女を放って勝手にヒートアップしていたのだ。決まりが悪そうにミコトを見下ろした。
「みっともないところをお見せしてすまなかったね。どうやら僕は君の前では冷静ではいられないらしい」
(いや冷静でいろよ)
というツッコミが喉まで出かかったところで咄嗟に飲み込んだミコトだった。
「男心とは難儀なものでね。年々美しくなってゆく君を見ていると気ばかりが急いてしまうんだ」
一ミクロンたりとも共感できない言い草にめまいをもよおしかけた。
常識が違いすぎる。
彼らが本当に乙女ゲーからやってきた異世界人だとホラを吹かれても無条件で納得しただろう。
(俺じゃなくても12歳の女の子に恋愛感情を持つとか普通じゃないぞ。毅然と言ってあげないと)
「困ります。私、中学に上がったばかりですよ。教養も振る舞いも全くの未熟で釣り合いが取れるとは思いません。お二人にはもっと相応しい女性がいるはずです」
(言った!言ってやったぞ!)
快哉を叫ぶには早いが、脈無しと悟れば引き下がってくれるはずだ。
「悲しいことを言わないで欲しいな」
「そうだとも。むしろ僕らは君が中学生になるまで辛抱強く待っていたんだよ」
背筋に盛大な怖気が走っても顔色を変えなかったミコトをどうか褒めて欲しい。
(ウソだろ!?こんな中身のない見た目だけの女の子のどこがいいんだよ!本物の可愛い女の子がここには勢揃いしているじゃないか)
「少し考えさせてください」
脱兎のごとく逃げ出したい衝動に駆られたが、母が怖い。
(お母様になんて言われるかわからないけど、屋敷のどこかに隠れて時間を潰そうかな)
巫女の力で鬼ごっこをすれば捕捉はまず不可能だ。
母のお説教を耐えられるなら割と現実的なプランなのである。
「巫女様」
煩悶に頭を抱える主をお救いせねばと奮い立ったのか、沈黙を守っていたユヅキが動き出す。
ミコト以外に聞こえないよう微かな声で耳打ちしてきた。
「彼らが邪魔なようでしたら」
さすが忍び。何か妙案があるのかと耳を傾ける。
「斬りますか?」
「斬らないよ!」
小声で叫ぶという器用な芸当をしてのけるミコト。
「冗談を申しました。考えがございます」
「ユヅキが言うと冗談に聞こえないよ……で、考えって?」
「不躾なお願いですが巫女様の力をお借りしたく存じます」
それからユヅキが伝えた内容にミコトはやや渋い顔をした。
「穏便に済ませる手がすぐには思いつかないし、仕方ないか。試したことは一度もないからあまり期待しないでくれよ」
「その時は別の手をご用意します。どうかお気軽に」
あまり長時間ユヅキとひそひそ話を続けていたら不審に思われるだろう。
腹をくくって呪言を口ずさむ。
「磁力制御――震天」
その直後、灯りが一つ残らず落ちて暗闇の空間と化した。
会場が混乱にどよめく。
「な、なんだ!?」
「停電か?」
「真っ暗よ、何も見えないわ」
周囲のざわめきに紛れるようにして人が崩れ落ちる音が二つ響く。
ほんの数秒で照明が復旧すると、騒ぎはすぐに収まった。
「君、配電盤の様子を見てきなさい。念のため修理業者も呼ぶように。そこの君は燭台を出してくれないか」
「かしこまりましたお館様。すぐに対処いたします」
屋敷の主人が落ち着き払った態度で使用人に指示を下す。
「皆様、驚かせてしまい申し訳ありませんでした。予備の光源を用意しますので安心してご歓談をお楽しみください」
下手に取り繕わず誠意をもって謝罪したのが功を奏したようだ。
出席者から非難の声は上がらず、気を取り直した様子でおしゃべりを再開する。
「上手くいってしまったな。よっと」
意識を失って眠りこける青年の一人をミコトは背負い上げた。ユヅキもそれに倣う。
「お見事でした」
「ユヅキも大した手際だよ。また腕を上げたんじゃないか」
ミコトが褒めるとユヅキはほんの一瞬だけだが誇らしげに微笑した。
(やっぱり笑うとぐっと可愛いくなるなユヅキって)
主従という堅苦しい関係で結ばれているとはいえ、自分のために笑顔見せてくれると胸が温かくなる。
(しかし使う機会のなさそうな魔法が役立つ時が訪れるなんて、何でも覚えておくものだなあ)
停電の原因はミコトの魔法によるものだ。
磁力を操り電磁パルスを発生させて屋敷の送電システムを一時的に麻痺させたのである。
後はユヅキが闇に乗じて二人を昏倒させただけだ。
針のような形の暗器が見えていたので薬でも打ち込んだのだろう。
「よし、それじゃこの二人は生け贄……もといプレゼントとしてあのお姉さんたちに預けようか」
「一石二鳥ですね」
ミコトとユヅキは周りからの注目を浴びながらも、女の子が集まっているグループのところめがけて真っすぐ突き進む。
身長差が大きいので青年の足をたっぷりと引きずっていたが、丹念に磨かれた床なのでさほど汚れはしまい。
女の子グループのリーダー格であろう、縦ロールの髪型が特徴の少女の前で歩みを止める。
歳は16、7といったところ。気位の高そうなお嬢様という印象を抱いた。
「この人お酒がだいぶ回っていたみたいなので介抱を手伝ってもらえませんか?」
「え……?ええ、お安い御用ですわ」
縦ロールの少女はミコトとユヅキの姿に面食らいながらも行動は素早かった。
「医療系魔法に心得がありますのでお任せを。命の心配はなさそうですわね。術で無理矢理起こすより眠っていた方が良くなりますわ」
「では後はお任せしても?」
「ええ、責任をもって介抱いたしましょう」
(案外悪い人じゃないのかな?)
敵視されているようなので、冷たく対応されるのではと身構えていたが拍子抜けした気持ちだ。
「ところで、あなたって見かけによらず力持ちですのね。自分より遥かに重い殿方を軽々と担ぎ上げるなんて、何かコツがありますの?」
そのようなことを問われてミコトは首を傾げた。
縦ロールの少女の目が気に食わない女に対するものからゴリラに向けるそれへと変わっているのに気づく。
「私、力の強さくらいしか取り柄がないもので」
照れ気味に返事を返しながら、少女らが侍らせている使用人に青年二人を引き渡す。
「くす、力自慢なんて男の子みたい。ヒラガの巫女のおっしゃりようではございませんわ。あなた、わたくしが思っていたよりずっと変わり者ですわね」
「えぇ……」
力自体は生まれつきのものなのでともかく、変わり者扱いには納得がいかないミコトだった。
「心外そうですわね。敵に塩を送っておいて変わり者ではないとおっしゃるつもり?」
「塩ではないです。私、男の人に興味ありませんから」
やはり変人ではないかと縦ロールの少女は笑った。
「誰とも打ち解けようとしないお高くとまった子だと認識していましたけれど、評価を改めさせていただきますわ」
(俺そんな風に思われていたの……)
「それっていい評価なんでしょうか?」
「そうですわね、じっくり討論を重ねたいテーマですから今度わたくしの屋敷に遊びにいらしてくださいな。歓迎いたしましょう」
縦ロールの少女は一方的に約束を取り付けると、
「ではごめんあそばせ」
と退出の意を告げ、お友達を伴って会場を出て行った。
「ふぅ」
ほっと息をつく。
(何とかなった……。言い寄ってくる男を排除しつつ、女の子たちに恩を売れたぞ)
暴力に頼ったので大金星とは言えないが、人見知りの分際にしては頑張った方だろう。
肩の荷が下りると同時にどっと疲れがやってきた。
「ものすごくくたびれたよ。帰ってお風呂にゆっくりとつかりたい」
「お出かけ前に湯浴みをされたばかりです巫女様」
律儀に合いの手を入れたユヅキにミコトは苦笑した。




