表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/70

035 青と赤

全然二章ラストじゃなかった……。

「もぉぉぉぉぉ! 仕事ばっかりでつまんない!」


 セントラルにある聖騎士総団長室に、幼い女の声が響いた。


「毎日毎日書類仕事ばっかり! 速くボクらもダンジョンに行かないと、他の奴らにアイテムを全部取られちゃうよ⁉」


 青い髪の幼女は、じたばたと手足を動かしながら叫ぶ。

 広い机の前に腰掛けている青年は、そんな声を意に介していない様子で手元の書類に視線を落としていた。


「ちょっと聞いてる⁉ マリンの話ちゃんと聞いてる⁉」

「やかましい。仕事中は話かけるなと言っているだろ」

「だって! ずっと仕事中なんだから話しかけるタイミングがないじゃん!」


 青年はため息を吐いて、書類を机の上に置く。


「もうすぐレーゲンの街に行く機会がある。ダンジョンなど、その時についでに攻略すればいいだろう」

「ついでなんて……ダンジョン攻略がそんな簡単なわけないでしょ⁉ ボクだってそれくらい分かるよ!」

「一々叫ぶな。外に聞こえる」


 頬を膨らませ、マリンは一旦口を閉じる。


「貴様との契約も、私の仕事がすべて終わったら取り掛かるという話だったはずだ。それまでは静かにしていろ」

「むー……」


 そんな二人の会話を遮るように、突然聖騎士総団長室の扉がノックされる。


「身を隠せ」

「……ちぇ」


 マリンの体が、まるで溶けるようにして消える。

 青年しかいなくなったと同時に、彼は扉の向こうに声を返した。


「入室を許可する」

「失礼いたします! ギルハット・スパルーダ(・・・・・)団長!」


 部屋に入ってきたのは、聖騎士団の伝令係。

 彼は騎士団特有の敬礼をギルハットに向けた後、持っていた書類を読み上げる。


「帰還した一番隊副隊長、クリオラ・エンバースより報告です。”虚ろ鴉”の長らしき人物と接触。フィクスと名乗ったそうで、レーゲンの街への大規模戦力の投入を要求しております」

「そうか。では一番隊から三番隊の隊長たちに遠征の準備を要求しておけ。指定した隊の準備が整い次第出発。”虚ろ鴉”、フィクスの首を取る」

「分かりました。あっ……それと――――」

「……どうした。まだ報告があるのか?」

「た、大変その……伝えづらいのですが……セグリット・スパルーダの死亡が確認されたとのことで……」

「――――そうか、ご苦労だった。下がれ」

「は、はい!」


 伝令係が去った後、聖騎士団の全てを統括している総団長である彼は、自室の窓から外を見る。


「……最後まで愚図な弟め」


 冷え切った声色でそうつぶやいたギルハットは、苛立った様子で拳を握りしめていた。


(何なんだこいつは……!)


 傭兵として様々な任務をこなしてきたその男は、目の前の得体の知れない対戦相手に恐れおののいていた。

 燃えるような赤い髪。身長は優に二メートルを超えており、肩にはそんな身長と同じか、それ以上の長さの大剣を担いでいる。

 ギラついた鋭い目は、睨んだ者を委縮させ、丸太のような太い腕はすべてを薙ぎ払えるだけの筋力を持ち合わせていると言えるだろう。


「オラ、来いよ」

「く、クソっ!」


 傭兵だった男は片手剣を構え、赤髪の男に跳びかかる。

 肩口から斜めに斬りつけるべく振られた剣は、見事赤髪の男の体を捉えることができた。

 

 ――――しかし。


「ハッ、とんだ鈍らじゃねェか」

「何⁉」


 肌に触れているはずの刃は、そこから一切沈み込もうとはせず、そのままピタリと静止していた。

 力を込めても、状況は変わらない。

 それほどまでに赤髪の男の皮膚は硬く、分厚かった。


「あー、ちげぇな。刃が悪いんじゃねェ、テメェが弱ェんだ」


 赤髪の男は、大剣を手放す。

 そして自分に対して刃を振るってきた目の前の男の頭を鷲掴みにし、そのまま持ち上げた。


「がっ⁉ あ、は、離せ!」

「テメェなんざ、愛剣を使うまでもねェ」


 掴んでいた手を離した赤髪の男は、その顔面へ目掛けて空いている方の拳を叩き込む。

 肉が潰れる音、骨が砕ける音がして、吹き飛んだ傭兵の男の体は何度も地面を跳ねる羽目になった。


「ま、筋は悪くなかったぜ。鍛えて出直せや」


 彼らの戦いを見ていた観客たちから、歓声が上がる。

 ここはセントラルの地下闘技場。

 様々な腕自慢達が集まり、観客は彼らの勝敗に金をかける。

 そしてついに百連勝記録を達成したのが、たった今勝利したこの赤髪の男――――。

 Sランク冒険者、レッド・ヴァーミリオンである。


「お疲れ様、レッド」


 控室に戻ったレッドを艶っぽい声で出迎えたのは、紅蓮の髪色を持つ妖艶な女性。

 彼女はレッドに歩み寄ると、そっとその唇にキスをした。


「さすがはこのフラムが選んだ人間ね。私の力(・・・)を使わずとも、貴方に勝てる者は誰一人として存在しないわ」

「ハッ、当たり前だろ? お前がオレを相棒に選んだこと、ぜってェに後悔させねェからよ」


 レッドは自信に満ち溢れていた。

 元々Sランクとしての高い実力を持ち合わせながら、そこにさらにフラムから与えられた強大な竜の力(・・・)が加わっている。

 そんなもの、自信を持つなという方が難しい。


「さて、と。オレの経歴に箔がついたことだし……行くとするか」

「そうね。そろそろ『紅蓮の迷宮』を攻略しないと」

「おうよ。さっさと攻略して、『挑戦権』を手に入れねェとな」


 二人は地下をあとにする。

 闘技場にあった人工的な魔力光源とは違う、自然な太陽の光が彼らを照らした。


「……にしても、本当にオレやお前に並べる奴らなんて存在すんのかァ?」

「貴方より強い人間はそういないと思うけれど……アビスという竜にだけは気を付けて。あの子はどこまでも狡猾だし、実力もあるから」


 それと――――。


「エルドラ……そもそも竜王争奪戦に加わることができるかすら怪しい子ではあるけれど、もしアビスからの不意打ちで生き延びていたら、一番脅威になるのはこの子だと思うわ」

「ほぉ、お前ほどの女がそこまで言うか」

「神竜の称号を持つ者同士に力の差はほとんどないけれど、少なくとも正面からぶつかりたいとは思えない相手ね」

「面白れェじゃねェか。そんな奴が選んだ人間とやり合えるんだろ? 血が沸き上がって仕方ねェ」


 レッドは獰猛に笑う。

 そんな彼を、フラムは愛しい者を見る目で見つめるのだった。


「そんじゃ、まずはレーゲンへ向かうぞ。あの街なら姉貴(・・)に融通を利かせてもらえるからな」


 二人は人気のない場所まで移動すると、それぞれ背中から紅い翼を生やし、飛翔する。

 彼らとセギオンたち、そしてディオンたちが邂逅するのは、これまた少し先の話――――。


短編を投稿してみました! よろしければこちらの方もよろしくお願いします!


濡れ衣で国外追放された元聖女は、辺境の地で新たな幸せを守ることにしました。~私を罪人にした他の聖女が困っているそうですが、もうどうすることもできません~

https://book1.adouzi.eu.org/n7643hc/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ