014 検定当日
※体調不良中に書いた部分があまりに雑に映ったので、流れはそのままで文章をかなり変えております。お手数ですが、この14話から読み返すことをお勧めいたします。
投稿が遅れて申し訳ありませんでした。
現在体調を崩していまして、療養しながらの更新になります。
更新頻度は全体的に下がりますが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
「よし、ちゃんと来たな」
「ええ……まあ」
「んだぁ? 浮かない顔じゃねぇか。面倒くさい条件抜きで一日でAランクになれるかもしれないんだぜ? もっと喜べよ」
とてもじゃないが、そんな気分にはなれない。
なぜならば、俺の心は今不安に押し潰されそうだからだ。
(結局のところ、今の俺は付け焼き刃。元Sランク冒険者に対してどこまで食らいつけるか――)
「ディオン」
俯き加減だった俺に、横から声がかかる。
そこにはエルドラが立っていて、俺のことを真っ直ぐな目で見つめていた。
「ディオンなら、大丈夫」
「……ああ」
伝説の神竜にそう言われれば、不思議と勇気が湧いてくる。
俺は震えそうになる足を叩き、視線をレーナさんに戻した。
「ほう、悪くない目だ。臆病者は卒業か?」
「はい。どのみち、今の全力をあなたにぶつける以外の選択肢がないですから」
俺の返しがお気に召したのか、レーナさんは口角を吊り上げる。
「はっ、冒険者はそうでなきゃな。どんな時でも冒険心! それを忘れたやつはいくら賢くったって冒険者としては失格だ。例え死んでも、己が満足するためなら突っ走らねぇと」
「れ、レーナさん? くれぐれも今回の趣旨を忘れないでくださいね……?」
「わーってるよ、シドリー。今回ばかりはあたしは試す側だ」
エルドラの隣に立つ受付嬢のシドリーさんは、心配そうな顔でレーナさんを見つめている。
エルドラの検定のときと違い、今日この場にいるのは俺を含めた四人だけだ。
元Sランク冒険者が検定に出向くとなれば、数多の見学者が現れることは容易に想像がつく。
これはシドリーさんからの提案で、一時的にその立ち入りを止めてもらっているのだ。
だからここでいくら手の内を見せても、俺たちまで目立つということはない。
「んじゃ――――やるか?」
レーナさんは笑みを浮かべたまま、傍らに突き刺していた大剣に手をかける。
ダンジョンボスが持っていた剣に比べれば、それはそれは小さく見えた。
しかしそれはやつが巨人であったが故の話であり、女性が自分の身長と同じ長さの大剣を担いでいるのは、さすがに歪に映る。
「ほれ、どっからでも来いよ。初撃はくれてやらぁ」
「……お言葉に甘えて」
俺は新調した鞘から、神剣シュヴァルツを抜く。
魔力を込めなければ、この剣はなまくらだ。
肌に当たったところで薄皮一枚斬ることができない。
逆に言えば、模擬戦闘であれば木剣と同じ使い方ができるというわけだ。
ちなみにだが、レーナさんの大剣も刃を潰した訓練用。
もちろんあんなもので殴られれば、刃を潰していても致命傷だけれど――――。
(せっかく初撃をもらえるんだ。やるなら、ここだよな)
目を閉じ、集中する。
意識を戦いへと送る前に、俺は昨日のエルドラとの訓練を思い返した。
♦
「ディオンは今、竜の力を持っている。だから竜の技が使えるはず」
誰もいない森の中、エルドラはまずそんな言葉を俺に告げてきた。
「竜の技?」
「そう、例えば――」
エルドラは少し離れた位置に生えた木へと顔を向ける。
次の瞬間、彼女の口から真っ白な光線が放たれた。
光線は木の中心を消し飛ばすと、他の木々に当たる前に粒子となって消える。
「これが咆哮。魔力を口に溜めて放つ技」
「すごいな……太い木が一撃で吹き飛んだぞ」
「だいぶ加減はした。本気で撃ったら街まで届く」
俺は自分が背中に冷や汗をかいていることに気づいた。
今の加減した一撃ですら、耐えられる気がしない。
当たれば俺の体は今の木と同じく消し飛ぶことだろう。
「この他にもいくつかある。あるけど……多分今のディオンができるようになるとしたらこれくらい」
「いや、それだけできれば十分だ……」
「そう? でも、これを撃つためにもきっとディオンの体が魔力強化に耐えられるようにならないと難しいと思う」
根本的な問題は、やはりそこだ。
魔力強化を使えば、体が壊れる。
ただ、俺には壊れたものを治す力があった。
「じゃあ、練習するか……魔力強化と回復魔術の同時発動」
「うん。とことん付き合う」
俺がやらなければならないのは、かなり難しいであろう技術の行使。
これをモノにすれば、きっとダンジョンボスと戦ったときの実力を常に発揮できるはず。
エルドラと何度か模擬戦をして、終われば少しの休憩。
これを何度も繰り返しているうちに、気づけば日が暮れてしまった。
「はぁ……はぁ……やばいな、そろそろ帰らないと」
「うん、ここまで使えるようになれば、きっと明日は勝てるよ」
「勝てるかな……あんまりその未来が見えないんだけど」
地面に倒れ込んでいた俺は、体を起こして汗を拭う。
確かに手ごたえはあった。
回復魔術しか能がなかった俺が、自分の体で戦えている。
それだけでも十分な成果と言えるはずだ。
「そうだ、名前をつけておかないとな」
「何に?」
「新しい技に。今までの魔力強化とはまた違うから、区別しておきたいんだよ」
魔術に名前がついている理由は、その名を口にするだけで発動するよう体に教え込むことができるからだ。
できるだけ分かりやすく、覚えやすいものだと尚いい。
「だったら、とっておきの名前を思いついた」
「え?」
「ディオンが扱うのは、竜の力。だから――――」
♦
「——竜魔力強化」
俺の体から、金色と緑色が入り交じったオーラが立ち上る。
これを見たレーナさんが、息を呑んだ気配を感じ取った。
「何だよ……そりゃ」
「……行きます」
俺は地面を蹴り、一瞬でレーナさんの眼前へと迫る。
そのまま振りかぶった剣を、彼女めがけて繰り出した。
「——初撃はもらえるって聞いたんですけど」
「馬鹿言え。防がねぇとは言ってねぇぞ」
しかし、俺の剣はレーナさんの大剣によって受け止められていた。
訓練用の大剣ですら、彼女が魔力を込めれば鋼鉄となる。
今の俺の剣では砕くに至らず、力任せに押し返されてしまった。
「ふーっ、ぶっちゃけ危なかったけどな。防がなかったら終わっちまってたかもしれねぇ。けどそれじゃ試しきれないだろ?」
「こっちは結構今の一撃に賭けてたんですけど……」
正直な話、今のは不意打ちに等しい攻撃だった。
真正面から戦って勝てるだなんて、いくら気持ちで負けたくないと言っても想像することすらできない。
(ただ、通用することは分かった。あとは如何に早く決着をつけられるかだな……)
一度息を吐くと同時に、俺はその時間の分だけ思考を巡らせる。
この竜魔力強化を発動していられる時間は、ただ動くことに集中したとしてもたったの五分。
俺から立ち込める金色のオーラは竜の魔力だが、緑色の方は回復魔術が発動している証だ。
竜の力を使うには、絶え間なくヒールをかけ続けなければならない。
つまりヒールを発動させる魔力が切れるのが、ちょうど五分後となるわけだ。
これが例えばシュヴァルツに魔力を込めれば三十秒短縮され、別個で回復魔術を使うことがあれば、その分発動時間は短くなっていく。
(いくら五分動けるからって、決定打にならないことは分かった。なら、リスク承知で隙を作るしかない)
それにしても、不思議な気分だった。
切羽詰まった状況であるはずなのに、どういうわけだか胸が躍る。
(本当に不思議だよ、エルドラ。俺、今レーナさんに勝とうとしてる)
自分がどこかでやれるか試したい。
そんな好奇心が、俺の体を前へと押し出していた。




