野営とメアの制御訓練
街道から外れた岩場の風を避けれる場所にテントを立てた俺達は、夜間の見張りをする順番を決める事にした。
カミナとメアさん、俺の三人で行う事になるのだが、最初はメアさんとカミナ、次が俺1人、最後にカミナ1人の順番となった。
保険として魔獣、魔物避けの結界魔導具を取り出し、設置した後に夕食の準備に取り掛かる。
夕食は、土魔術の応用で竈を作ると、鍋に水を入れて、食べられる木の実やキノコを使い、調味料で味を整えたスープと、カミナのご要望で、カウとオークの合挽き肉で作ったハンバーグと芋のサラダで完成した。
「やはりルークが居ると、飯が楽だし旨いものが食べられる。では少し横になっているぞ、メアの魔術訓練をしてやらねば、いかんからな」
カミナはさっさと食べ終えると、手頃な倒木を魔爪で切り形を平らにすると、魔術で更に形を整え簡易式の長椅子を作ると、そこに寝転んだ。
俺は水魔術で洗い物を済ませると、テントに入り、中を整えた。
中には、毛布と『暖房』『冷房』の魔術を付与した簡易式のエアコンを取り付けていた。
『暖房』の魔術を起動し、温風が出てくることを確認した後、三人分の敷き布団を広げる。
懐中時計を見ると、21時前だった。
俺はそのまま眠りに就いた。
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【カミナ・メアside】
「さて、そろそろか?」
ふと呟くカミナの視線は、メアに向いていた。
メアの纏う魔力の質が━━変わる。
そこに居たのは、メアが成長したと思われる姿だった。
髪は肩まで流した白銀のロングヘアになっており、背丈はカミナと同じくらい同じくらいで色白の肌は月明かりに照らされていた。
渚や沙耶の中間くらいのある胸を、見せつける様な艶やかな漆黒のドレス。
正に絶世の美女と呼べる姿だった。
「中々良い女の姿だな?ルークの周りを参考にしたか?」
「…知らないわ、ワタシの姿を見ても驚かないのね?」
「小さい時に『吸血鬼の力が強まるから』と言っていたからな、姿が変わるのは予想がつく」
「フフッ、そう?でも今のワタシは、小さなメアよりは魔術の扱いが巧くなっているのよ?」
メアは魔術を展開し、上空に向ける。
「やれやれ、では全力で今使える中で、最大級の魔術を使い、魔力を消費しろ、元の姿の時に使える感覚をその身体で理解するんだ。…分かったか?」
「時間が少ないのは仕方無いですけど、ワタシの気持ちがやっと分かったの。だからッ!!」
雷と水と風の魔術を、片手で同時に展開していた。
「ほう?」
「制御するのを手伝って下さいねカミナさん!!━━『強欲なる嵐』」
魔術で作られた雷を帯びた竜巻が、上空に放たれた。
その中のから、制御が出来ていない余波の雷がカミナに襲いかかる。
しかし、カミナは躱す事も無く、待ち構えるだけだった。
「まだまだ甘いぞ、全身の魔力循環を高めろ。枯渇するまで行わないと、制御にならんぞ」
「はいッ……ッ!!」
全身の魔力循環を高めながら、魔力を放出し続ける。
元々の魔力量が多い為、さほど魔力量に変化は見られなかったが、制御が追い付いているようで、余波の雷は徐々に少なくなっていた。
「(魔力量が多いのは良いが、まだ制御が粗いな。複合魔術の扱いは巧いから、魔術師としてはかなりの才を持っているな。しかし、ダンジョンの攻略までは危ないか……最悪ルークの血を飲ませた方が良いかもしれんな)」
そのままカミナは、メアの魔力量が枯渇ギリギリの所まで減らしてから手を打った。
「よし、今の状態からが本番だ。『水球』を出せ」
「…はぁ、…はぁ…んッ…は…い」
肩で息をしているメアは、なんとか小石程度の『水球』を出した。
「その『水球』を維持しながら、闇の魔力で性質を変えていけ、ただし一気に変質させると『闇球』にしかならんからな?」
初歩の魔術訓練に使う魔術、数回分の魔力しか残されていない状態から、内部のみを変質させるのは、かなりキツイ作業になる。
実質2つの属性魔術を操る事になるのだが、余分な魔力が無いので、魔力量に物を言わせて行っていた先程の複合魔術の様な事は出来ない。
精神力と極度の集中を必要とする訓練になる為、メアも漏れなく魔術に集中をし始める。
「さて、そろそろ時間だが……仕方無いか」
「…………すぅ…んんッ……すぅ……」
極度の疲労感と魔力枯渇ギリギリでの制御は、メアの集中力を奪う方が早かった。
魔力枯渇を起こしたメアは、元の姿に戻り、気絶する様に眠っていた。
カミナは眠ったメアを抱えると、テントに向かい綺麗に敷かれた布団にメアを寝かせた。
「(ルーク、起きろ!! 交代の時間だぞ!!)」
左端の布団に寝ているルークに、カミナは念話を使い起こすのだった。
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カミナに起こされ、時間を確認すると、交代の時間丁度になった。
「(おはよう、良く寝れたか?)」
「あれ、メアさんは?」
「(寝ているから念話を使ってるんだ、そらくらい察しろ馬鹿者)」
「(何か変化はあった?)」
「(いや、特には無いが、……向かうのがフィールドダンジョンだ、最悪の時は、お前の血を飲ませる事を想定に入れておけ)」
「(そんなにヤバい状態なの?)」
「(制御が粗い所が多くてな、おそらく枯渇するまで制御をした経験が無いからだと思うが、ダンジョンでは何があるか分からないからな)」
確かに、ダンジョン内で孤立や遭難すれば、生存率は下がる。
1人でも逃げる事が出来るくらいの力を持っておく事が、最低限のラインではある。
「(分かった。極力メアさんの側に居る様にするよ)」
俺は、メアさんに血を飲ませる事を想定に入れて、ダンジョン内で動く事を決めた。
その時、ふと見上げた空には、雲の間から覗く月明かりが、柔らかい光の帯を闇夜の木々に伸ばしているのが、光のカーテンの様に見えたのだった。




