再構築試験 ハイポーション作成
暫くして、ネブラスカ試験官は、道具箱と素材箱を持って戻って来た。
「済まない、待たせたな」
「いえ、大丈夫です。では作成に入ります」
俺たちは、作業を確認して使う道具を取り出し、乳鉢とフラスコ、試験管を配置した。
素材箱の中から以下の物を取り出した。
・ヘプの実(ポーションの主材料の赤い実)
・月の雫(薬効成分を強化する魔力触媒の黄色い液)
・錬金精製水(不純物を0にした精製水)
・白天花 (主にポーション類の薬効成分を調整・安定化する際に使う花)
先ずは乳鉢に、ヘプの実を入れて砕きながらスポイトで、魔力水を少しずつ加えていく。
赤い汁が出てきたら、フラスコに魔力水の半分を入れ、実を取り出して汁のみをフラスコに入れ、この作業をフラスコの魔力水が変色するまで行う。
フラスコの中身が濃い赤色になったら、火に掛け、月の雫を2滴スポイトで入れ、そのまま温める。
薄いオレンジ色になったら、火から下ろし粗熱を取り冷ましておく。(この時に魔術で冷やすと品質や成分が変質するので禁止だ)
その間に、白天花を魔力水で煮込み、安定用の液体を試験管の半分程取り出し、こちらも粗熱を取る。
二つの粗熱が取れたら、半透明なオレンジ色になるまで、安定液を入れて完成。
『解析』を活用して、俺はようやく『高位回復薬』を完成させた。
エリーゼは、俺の作業が終わる前に作り終えて居た。
同じ作業をしていた筈なのだが何故だ?
不思議そうに思っていると、ネブラスカ試験官から声が掛かった。
「エリーゼは工程を省いて、代わりに違う素材を用いたのだな?ルークのは基本のレシピで作られているが、品質が最高品に成っている。素材自体は普通の品質なのだがな?全くもって規格外な子供達だな」
ネブラスカ試験官は、俺達のハイポーションを見て、驚きながらも判断していた。
「時にエリーゼ、この方法をどこで学んだ?私の記憶では約百年程前に、同じ事をした女が居たが、ヴァシュロン家の関係者か?」
「いえ、ヴァシュロン家の関係かは知りませんわ。魔力水自体に工夫をするのは基本的な事でしょう?」
「前提として、『レシピを知っていれば』の話だがな」
「偶々ですわ、似たようなレシピを見たことがあるだけですので。先生がハーフエルフの方でしたから」
「成る程、わかった。まぁ良い二人とも合格だ。これを受け取れ、錬金術師ギルドのグランドマスターが発行した最高位の証。ミスリルカードだ。無くすなよ? 他に聞きたい事があれば言ってくれ」
その手には、2枚の薄い青銀色のカードがあった。
「グランドマスターって何ですか?」
「何だ?グランドマスターを知らないのか?」
グランドマスターが何か全く知らなかったので、ネブラスカさんに聞くと、少し呆れた顔で、教えてくれた。
「薬師と錬金術師ギルドの両方が推薦して選ばれるのが、グランドマスターだ。そもそも薬師と錬金術師は、錬金術を使うか否かの差しかないからな」
「ならネブラスカ試験官は、どちらとも優秀な方なんですね」
「私などまだまだ。因みに、エリーゼの使った方法は、昔ヴァシュロンの令嬢が、私の前で見せたものと瓜二つだった。薬師の作り方と、錬金術を合わせた物だ。最も、今では難しすぎて使うものは、そうそう居ないがな」
ネブラスカさんは、少し懐かしみながら笑っていた。
「では、帝国のギルドに用事があれば、私の名とカードを提示すれば直ぐに会える様にしておく。距離があるから滅多に無いとは思うが、立ち寄る事があれば、寄ってくれ」
「「ハイ、ありがとうございました」」
二人でお礼をして、ネブラスカさんを部屋から見送った。
「いやはや、転生して百年前の知り合いに会う事になるとは……ビックリだね!」
「いやいや、何で誤魔化したの?」
「だって、ラーちゃん絶対に怒ると思ったんだもの」
「ラーちゃんってネブラスカさんの事?何で怒ると思うの?」
「えぇ、そうよ。実はね、死んじゃった日の昼に会って、夜にね…でも驚いたなぁ、人見知りのラーちゃんが、今ではギルドのグランドマスターだなんて…」
「仲良かったんだね?」
「うん、でもエルフなのは知ってたけど、綺麗になったなぁ」
「昔から一緒に色々やらかしたものね、エリー?」
「そうそう…えっ!?」
試験部屋から見送ったネブラスカさんが、顳顬をピクピクとさせながら、微笑んでいた。
「やっぱりエリーだったのね。しかも記憶もしっかりしているみたいね?」
微笑んでいるが、正直怖い。
「…ルーク君……逃げたい…助けて?…」
「ニ・ガ・サ・ナ・イ。きちんと説明しなさいよ……馬鹿……」
ネブラスカさんは、エリーゼの頭を抱きしめ、少しだけ涙目になっていたので、俺はそっと部屋から出て行いき扉の中に手を合わせた。
「い~~や~~!!」
その瞬間、エリーゼの断末魔が部屋の中から響き渡った。
ネブラスカさん、泣きそうな顔で抱きしめてたけど、手は握り拳になっていたんだよね。
2時間位過ぎると、エリーゼを背負ったネブラスカさんが出てきた。少しだけ腫れぼったい目をしていたが、何も言わなかった。
「済まない。この馬鹿娘の婚約者だそうだな?」
「はい、最近なりました」
「この娘は、私の親友なんだ。だから、頼む。今度こそ、普通の娘として生きさせてやってくれ。お願いできるか?」
「俺はただの子供ですよ?」
「貴方みたいなのが、ただの子供なら、世の中狂ってるよルーク・フォン・ラーゼリア殿?」
「まぁ、婚約者…という括りが無くても、『手の届く範囲』は護りますよ。どんな手を使ってでもね」
誰も居ないのを確認した上で、魔力を拡げ、言葉に乗せた。
「フフフッ、その年齢で、何て魔力の質よ。これならポーションの品質が高くなるわ。エリーの事任せたわよ」
と言って、エリーゼをソファーに寝かせるとそのまま残して、廊下の曲がり角を曲がると、姿はもう無かった。
「……んっ、へへ…ラーちゃん……」
ソファーに寝ているエリーゼは、ネブラスカさんと同じ様に、少しだけ腫れぼったい目になっていたが、幸せそうな笑みを浮かべ寝ていた。
俺は、この眠り姫様をどう運ぶかを考える羽目になり、『転移』を発動させて、寝ているエリーゼをお姫様抱っこの状態で抱えて移動したのだった。




