決戦
「ふん……口ほどにも無しか」
「まだだ!!」
そう叫びながら立ち上がろうとする俺を見て嘲笑を浮かべた彼女は再び拳を振り上げると一気に振り下ろして来たのだ。
「あああああああ!!」
その瞬間、俺の身体に凄まじい衝撃が襲いかかり地面を抉りながら吹き飛ばされる。そして俺はそのまま何度も回転しながら転がり続けた末に壁に激突し意識を失ってしまったのである。
次に目を覚ました時には地下は崩壊しており、瓦礫の上に倒れていた。痛む身体を何とか起こそうとするが力が入らず立ち上がる事すら出来なかったのだ。そんな俺を見てベルフォートはニヤリと笑みを浮かべこう口にしたのである。
「ふっ……まだ息があったか」
そんな絶望的な言葉を耳にしながら、俺は起死回生のチャンスが訪れる事を心の底で望んでいた。
その時、ふと頭の中に声が響いたのである。
『お主ならやれる……己を信じろ』
(ノルン?)
『ああ、妾じゃよ。そろそろ準備が整った様じゃな……』
(準備って……?)
そう言葉にするよりも先に再び俺の意識は闇に飲まれたのだ。
「此処は?」
意識が戻ると同時に目を開くと其処には信じられない光景が広がっていたのである。
目の前に広がっていたのは無数の鎖が張り巡らされた空間でありその中央には俺が居た。
「特訓した割には随分とやられてるみたいじゃ無いか」
鎖に絡め取られた俺がそう言う。
「この鎖が見えるだろ、コレは全部ベルフォートの因子で作られた鎖だ。コイツを断ち切れ」
「切ればどうなるんだんだ?」
「全て丸く収まる。それだけだ」
そう言うと眼前の俺から鏡花水月の柄が出現したのだ。
これを引き抜いて鎖を断ち切れという事なのだろう。
俺は鏡花水月を引き抜いて鎖に斬り掛かった。
1つ、また1つと切っていき全ての鎖を断ち切れた所で、もう一人の俺が口を開いた。
「草薙の剣、速須佐之男命奉る。ひーふーみー、よーいーむーなーやー、こーとーもーちーろーらーねー、しーきーるー、ゆーゐーつーわーぬー、そーをーたー、はーめーくーかー、うーおーえー、にーさーりーへーてー、のーまーすーあーせーゑーほー、れーーけーー」
刹那、視界が真っ白に染まったと思った瞬間……俺は地下の空間に立っていた。目の前にはベルフォートが佇んでおり、その表情には驚きの色が窺えたのである。そして何故かその手に握っていた筈の鏡花水月は草薙の剣へと姿を変えていた。
俺はそれを振り上げ一気に斬り掛かった。
だが、やはりと言うべきか。呆気なく受け止められてしまったのである。
「中々の攻撃だが……我には届かんよ」
そう言って余裕を見せるベルフォートに対して俺は冷静に攻撃を続けたのだ。
最初の一撃を防がれた後は返す刃で二撃目を叩き込む。しかしそれも簡単に避けられてしまい空振りに終わると今度は横薙ぎの一閃を放つもこれも紙一重で躱されてしまったのだ。
(くそっ!当たらないか)
心の中で悪態を吐きつつも次の手を考える俺に彼女は告げる
「何故? ……この速度に付いて来られる?」
その言葉を聞いた瞬間、俺は自然と笑みが溢れていた。何故ならその答えは一つしか無いからだ……もう一人の俺が力を貸しているからという他無い。
「巫山戯んな!こんな所で死ぬわけには行かねぇんだよ!!」
そう叫びながら連撃を繰り出す俺に彼女は初めて表情を変えたのだ。
焦りの表情を浮かべる彼女の姿には余裕など微塵も感じられず、俺に対して本気で向き合っている事だけは理解出来た。
それからも猛攻を続ける俺に対して彼女も負けじと反撃を繰り返すがその動きは明らかに遅くなっていたのである。否、俺の速度が上回った瞬間だった。
「な、何が起こっている……!?」
動揺する彼女に向けて俺は更に速度を上げて行く。彼女の体が徐々に赤く染まって行くのを見て確信を得たのだ。
(行ける!)
そう確信した次の瞬間には、俺の刃は確実にベルフォートを捕らえたのだ。すると、その身体を斬り裂かれ血飛沫を上げながら倒れる彼女を見下ろしながらこう告げたのである。
「……此方は一人で戦ってるワケじゃねぇ」
そう言って笑った俺を彼女は睨み付けてくるが、その体は小刻みに震えており動くことすらままならない様子だった。
そしてそんな彼女に対して俺は告げるのだ。
「もう終わりだな」
俺がそう口にした瞬間だった……突然背後に気配が現れたと思った次の瞬間には衝撃と共に吹き飛ばされていた。壁に激突し瓦礫に埋もれていく中、薄れゆく意識の中で俺の視界に映ったのは俺を突き飛ばした魔術と倒れ込むベルフォートの姿だったのである。
その姿を見た俺は……心の中で笑みを浮かべたのだった。
(後は任せたぞ)
そんな俺の想いに応えるかの様に、誰かの声が聞こえた気がした。
『お疲れ様でした』
それは聞き覚えのある声だったが、確認する暇も無く俺の意識は闇へと沈んで行ったのだ。
気がつくと俺は自宅のベッドで眠っていた。そして傍らには心配そうに見つめる仲間達の姿が目に映ったのである。
「どうやら成功したみたいだな」
俺がそう言うと皆安堵の表情を浮かべると共に喜び合っていたのだ。そんな様子を見て俺は心から嬉しさを感じていた。何故なら皆が無事ならばそれで良いと思ったからである……だが、同時に新たな疑問が生まれたのも事実であった。
(ベルフォートはどうなったんだ?)
そんな俺の考えを読んだカミナが口を開いた。
「聖女リデルの身体は一応無事だ。綺麗にベルフォート邪心……残滓を消し去った……全く大したものだ」
そんなカミナの言葉を聞いた俺は少し複雑な心境だったのだが、とりあえず無事に終わって良かったと思う事にした。
そして俺達は寝室を出るとリビングに向かい今後の話を始める事にしたのだ。
「さてと……今回の件は一件落着だとして、次はこれからの話だ」
俺の言葉に皆が注目する中、俺は本題を切り出す事にしたのである。
残された因子の個数と教授が身に着けた因子の行方についてその話を始めた瞬間だった。
『ベルフォートの因子は全て消滅しました。最早この地に残るのは残滓程度ですので、大丈夫ですよ』
その言葉と共に目の前が明るくなり、見たことのない女性が姿を現したのだった。




